これは韓国ドラマに置き換えてリメイクすることも可能だ。そのくらい現在の韓国ドラマには、アメリカ・ドラマをリメイクしても違和感がないようなドラマが自然発生的に多くなっている。
「Vagabond/バガボンド」(2019年 SBS)はその典型的な例といえるだろう。国際的なスパイ間の争いがテーマとなっていることもあるが、このドラマにおける、韓国ドラマとアメリカ・ドラマとの差異は、演じている俳優だけの違いであり、演出・脚本・登場人物のキャラクター・アクション・撮影・音楽効果とも、アメリカ・ドラマと比べて何ら遜色はない。
情感溢れる人間ドラマの多い韓国ドラマ
だが、一番大きな差異点はドラマの企画そのものにある。
韓国に限らず、世界のどこの国でも、これまでドラマ製作の企画を突き詰めていけば必然的にアメリカ・ドラマ的な発想に近付いていくと思われてきた。
例えば、複数のシナリオライター集団からのアイデアで全体のコンセプトを決定していくドラマ製作は、アメリカの脚本作りの王道だ。その点だけ取っても、一人の脚本家が単独で書く傾向の強い韓国ドラマとは歴然とした差異がある。
一人の人間が考える着想には限界があり、集団創作によるアイデア作りにかなわない点が多々あるのは否めない──これがアメリカ・ドラマ製作の常識だった。だが、韓国ドラマのアイデンティティはまさにその常識とは違う点にある。
限りなくアメリカ・ドラマに接近することによって、そのテイストは自然に身についてきたものの、脚本・アイデアの根本の発想は全く異なる。一人の脚本家が作り出す構想にはやはり韓国という背景抜きでは考えられないものが多く、そうした要素抜きに2010年代からの韓国ドラマを語ることはできない。
その一例として「愛の不時着」「梨泰院クラス」「賢い医師生活」等が韓国特有のオリジナリティ溢れるドラマとして挙げられるのは、韓国でしか成立しない条件による発想で作られているからだ。
「愛の不時着」における韓国から北朝鮮への不時着は、アメリカではまず考え付かない着想である。「梨泰院クラス」の居酒屋を舞台にした若者の反逆的なストーリー展開も、WEBマンガ原作という要素を抜きにしても、アメリカではおそらく企画・構想されないプロットだ。
「賢い医師生活」も舞台と設定は「ER 緊急救命室」「グレイズ・アナトミー」等にインスパイアされたと思われがちだが、視聴すれば、全く違う手触りの医学・人間ドラマであることがわかる。「賢い医師生活」の韓国ドラマ特有の情感を生む空気感は、絶対にアメリカ・ドラマでは作り出せないものの一つだ。
この3作は韓国ドラマの中でも異色作なのだが、それでも紛れもない韓国ドラマである。だから、二国のドラマを視聴する現在の日本人には、奇想天外なSF設定のアメリカ・ドラマと、情感溢れる人間ドラマの多い韓国ドラマは、コインの裏表のように見えるだろう。ドラマの究極の二面性がここにある。
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