動画ストリーミングサイト「Netflix」で世界90カ国の視聴回数1位を記録した『イカゲーム』をはじめ、世界からの支持を集める韓国ドラマ。予算が潤沢なわけでもなければ、世界的なスター俳優がいるわけでもないにもかかわらず、韓国ドラマはなぜ世界を制することができたのだろうか。
ここでは、ノンフィクション作家の藤脇邦夫氏の著書『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)の一部を抜粋。アメリカとの比較を元に、韓国ドラマの優れた点を解説する。(全2回の1回目/後編を読む)
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アメリカ・ドラマ化する韓国ドラマ
2010年代のケーブル局製作ドラマに顕著な傾向は、アメリカ・ドラマ・テイストの韓国ドラマが多くなっていることだ(アメリカ・ドラマの韓国リメイク作があまり違和感がないのは相性の良さと成熟を示している)。
企画からスタートし、その役に相応しい俳優を後から当てはめていくというアメリカ形式のケーブル局と、スター俳優を中心に企画を考える地上波局では、そもそも企画の立脚点が全く違う。有料放送の特性を活かして特定の視聴者を対象に製作されるドラマは、従来の企画とは根本的に真逆の発想で作られているといっていい。
従来の地上波が手掛けなかったテーマが多く、企画・脚本・演出にもそれほど制約はかからず、自由な表現がある程度可能だ(*1)。地上波局からの転職がケーブル局スタッフ(例えば、tvN)に多いのはその事実を物語っている。ヒット実績のあるスタッフや、若いスタッフ世代は最初から、ケーブル局を目標にしているというのがここ10年の韓国テレビ業界の新しい潮流だ。
*1 地上波は当然だが、ケーブル局ドラマでも、韓国のテレビ放送で性描写は最初から論外なのはもちろん、暴力描写・残酷描写についても、いかにケーブル局ドラマでもあっても、ある程度の制限はある。最近では「ボイス」辺りが許容ギリギリで、やはり、特定の観客を対象とした非日常な世界を構築するには映画の形式の方が向いている。
斬新な企画のケーブル局と比べて、古色蒼然となった時代遅れの地上波の違いは明らかだ。この傾向は2020年代にはさらに顕著になり、地上波との差異化云々より、全く違う方向性が表れることになった。
極端にいえば、地上波放送のドラマは韓国内(他には日本等のアジア諸国)に向けて製作しているだけだが、ケーブル局製作ドラマは──特にネット配信が決定している作品は──、最初から韓国以外の国の視聴者(欧米その他)を対象に製作されている。