その決定打となったのは、何といっても女優では「THE K2~キミだけを守りたい~」(2016年 tvN)のユナ(編集部注:女性アイドルグループ「少女時代」のメンバー)、そして男優では「病院船~ずっと君のそばに~」(2017年 MBC)のカン・ミンヒョク(編集部注:3人組バンド「CNBLUE」のメンバー)である。二人とも適役という利点もあったが、それだけで、最低16話以上のドラマ番組を持たせることはできない。二人とも天賦の才能があったというべきだろう。俳優に劣らない、独特の存在感を示した好例として挙げておきたい。
改めて繰り返すまでもなく、K‐POPグループ・メンバーのドラマ出演については以前より賛否両論ある。だが、「病院船」のカン・ミンヒョクを見ている限り、とても俳優初主演とは思えない。歌同様、その演技は自然で、本職の俳優が出演しているのではと錯覚するほどだ(グループ「CNBLUE」四人の他のメンバーもそれぞれドラマ出演経験がある)。
筆者が考えるに、「病院船」では主役で出演しているため、共演している俳優たちがカバーする場面が多いゆえに、演技の稚拙さが目立たないのだろう。脇役で出演して、一人だけの「素の演技」の場面になると、素人っぽさが一挙に露呈してしまう(初主演の「病院船」まではすべて脇役的な出演だった)。
そういう理由を抜きにしても、俳優として適性があるかどうかの判定は当然あり、少なくとも本作に限っては、カン・ミンヒョクは指摘されなければ間違いなく新人俳優の一人に見える。これは製作側も嬉しい誤算だっただろう。
知名度の事前通知
どのようなジャンルであれ、歌手が俳優として活動を始めるのは、韓国に限らず珍しいことではない。俳優が歌手を兼ねる例もあるが、歌の巧拙は聴けばすぐにわかるから、誰でも可能なことではない。俳優の誰もが歌えるわけではないが、歌手が俳優をこなすことはそんなに難しくないというのも短絡的な考え方で、現実はそう甘くはない。
だが、歌手が俳優として出演する場合、共演者や周囲の手助けで、「素人」的な部分をそれほど露呈させないことは可能で、この辺りは演出のマジックもあるのだろう。特に群像劇の場合、よほどの欠点がない限り、登場人物の一人として無難な存在となることが多い。
そもそもアイドル映画というジャンルはそういうものだが、韓国ドラマの場合、アイドル映画的な意図で歌手が出演することや、歌手出演のためにドラマ企画を考え出すことはない。あくまでも、ある企画の登場人物の一人として、この歌手は適性があるかどうかという判断になる。そうでないと、ドラマ自体のコンセプトが確定しない。また、ドラマの脇役の一人もしくは準主役級の一人ぐらいでの出演が限界であり、適正である。
とはいうものの、ある歌手が脇役でも出演することは、ドラマの宣伝、事前告知としては極めて有効で、考え方によっては、それだけでも歌手を出演させる意義はある。だから結局のところ、歌手の俳優起用は、そのくらいの意味という意見もある(最初から性格俳優的な要素を歌手に期待しても始まらない)。ドラマ内のアクセント程度に考えるのが本来の起用法であり、その証拠に、チョン・ウンジを筆頭に、カン・ミンヒョクも「病院船」以後はそれほど定期的に俳優出演を続けているわけではない。