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40代と20代の違い

 20代だったら、疲れて見えることにはなんの怯えもなかったと思います。むしろ、ちょっと自慢気になっていたかも。徹夜で見続けるほど面白い海外ドラマがあるんだよ~と、あなたの知らないであろう楽しいことを知ってる自分を、得意げに見せびらかしてさえしていたかも。あの頃は、「私は楽しい時間を過ごしました」の表明が、私を幸せにしたから。楽しいことから見放された人に見られるのがなにより怖かったから。

 いまだって、楽しい出来事は楽しいのです。しかし、楽しさを他人に喧伝(けんでん)することは、20代の頃より私を幸せにしなくなりました。楽しいことは、自分で楽しんでいれば十分なのだよ。

 20代の私は、他人から「楽しそう」に見られたかった。40代の私は、「いつでも元気」に見られたい。私に限ったことかもしれませんが、年齢によって他人からどう見られたいかは変化するものなのでしょう。

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 40代と20代の違いで言えば、いまは特に、生活に苦労しているように見られたくないという思いがあります。突き詰めれば、どちらも「十分に人生を楽しめていなそう」に見えるのが嫌ということか。

 

愛に疲れたわけではない

 それじゃあ30代は? 思いを巡らせ、最も知りたくなかった答えにゴツンとおでこをぶつけました。そうそう、30代の私は「幸せそう」に見られたかったんだった。あの頃の私は、幸薄そうに見えるのをなにより恐れていたんだった。

 30代の私が「幸せそう」に見られるために絶対必要だと考えていたのが、結婚でした。結婚すればすべてがオーライ、みんなから幸せ認定され、自動的に人生のゴールにたどり着くとさえ思っていました。問題は、人からどう見えるかではなく、自分がどう感じているかなのに。 

 振り返れば、あの頃は誰かの妻になる覚悟なんて、まるでなかったとも思います。いまだって、あるかないかで言えば、ない。年々なくなっていると言えましょう。 

 でもね、結婚しないとは決めていないんです。するかもしれないし、しないかもしれない。とかなんとか言いながら涅槃(ねはん)に旅立つことになる予感はビンビン感じておりますけれども、愛に疲れたわけではないのです。

ひとまず上出来』 ジェーン・スー

 

 令和を迎えた「ネオ中年」の私たち。今までのやり方を変えたり、手放したり。恐れずに、いまの自分のちょうどいいを見つけよう。CREA連載「●●と▲▲と私」に加え、話題沸騰の推しエッセイ、楽しいお買い物についての書きおろしも収録の最新エッセイ集。

ひとまず上出来

ジェーン・スー

文藝春秋

2021年12月15日 発売