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 父が生前、貸金庫を借りてることなんかもまったく知らなくて。銀行から「貸金庫がありますよ」と教えてもらって、「何か、変なものが入ってたらどうしよう。怖い怖い」って。相続をすべて終わらせて、最後に貸金庫を開けてもらったんですよ。

「それではお開けします」「え、空……」みたいな。 

——開けてみたら、空。なんだか漫画のような。 

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アンナ ほんとに空だったの。おそらく本人も、貸金庫があったこととかすっかり忘れてたと思います。貸金庫も年間5000円くらいかかるんですよ。それも相続が終わらないと、解約できない。それこそ携帯電話なんか、解約できたのが先月ですよ。 

 

——辰夫さんが遺したレシピの写真を拝見するとキチッとまとめられているので、そういうことを細かく覚えている方だったのではと思ったのですが。 

アンナ まめな人でしたけどね。やっぱり、年を取って覚えていたくても覚えられないことが増えたんじゃないかな。昔はまったく怒らなかったのに、年をとってすぐ怒るようになった話をしたけど、それと一緒で。 

謝らなくても仲直りできていたのに、尾を引くように

——もちろん怒りの類が違いますが、怒るといえば今回の本でも「思春期などは、取っ組み合いの喧嘩もしました」と書かれていますが。 

アンナ よく喧嘩しました。私も熱いけど、父も熱いのね。あと、ふたりとも生真面目で頑固。私は風貌が派手だから、そういう風に見えないことが多いんだけれども。

 私がこうだと言ったら「いや、俺はこうだ」「いや、こうだ」と始まって、気がついたら取っ組み合いになってる。「なにさ!」「なんだ、その口の利き方は!」みたいな。それで、しょっちゅう怒られてた。小さい時から。 

 

 愛の鞭だったんでしょうけど、15歳、16歳くらいになると多感な時期になるから父親が好きなのか嫌いなのかわからなくなって。頭にきて家を飛び出すけど、父の言っていることは「間違ってないな」と思ったりして。 

 若い時はいちいち謝らなくても、自然と話せるようになったんですけど、父が年を取って病気になってからかな、喧嘩しても尾を引くようになったというか。こちらが普通に喋っても、「いや、俺はお前と口きかないからな」「えー?!」って。年を取ると子供に戻っていくんですよね、人間って。