「潤うと思っている学会員はいない」
そもそも現場の創価学会員たちは10万円給付にそれほどこだわっていたのだろうか?
学会はこれまでも「地域振興券」(1999年)や私立高校授業料無償化の拡充(東京都)といった分配政策に熱心だった。20年に配布された一律10万円の定額給付金も、公明党が強力に推したものだ。
ただ、党の講演会を覗けば聴衆は7、80代が目立つ。そんな学会員たちの間から「18歳以下への給付」という強い要望が出てくるのか。
「この給付で自分たちの懐が潤うと思っている学会員はいないよ」
そう話すのは、東京都心の地域組織の中堅幹部である田代進(仮名・50代)である。
「子育て世帯の学会員は減りました。どこの支部や地区も、未来部(18歳未満)は3、4人ぐらい。ただ、支給される人が周囲に少ないからといって、不満もありません。集会で意向を聞かれたことはないし、アンケートもない。でも、学会を信じているからこそ、公明党が打ち出した政策はそのまま受け入れる。それで党の評価が高まって選挙で勝てるならいい。それだけですよ」
では10万円給付は学会員の意向と無関係なのかといえば、「それも違う」と田代が続ける。
「選挙の際、学会員以外の友好的な人をF(フレンドの略)と呼んで協力をお願いするのですが、そのとき説得材料の一つにはなります。ただ、実際に協力を得られる時って『信頼する〇さんに言われたから』とか、人と人の関係が大きいんだよ。お金じゃない。学会の選挙というのはシンプルで、『いつか味方になってくれるはず』と考えて一生懸命に働きかける。命がけでやる“お祭り”みたいなもの。10万円の公約が5万円になったら、Fに合わせる顔がないと思う人もいるかもわからないけど、やはり最後は人間関係でしょう」
田代は給付金についてはそう淡白に受け止める。だが、別の学会員は「女性部に配慮したのでは?」との見立てを語る。
「結婚した女性は、子供や旦那について不安を抱えることが多く、宗教にのめり込みやすい。縋るものが必要になりますからね。ヤングミセスの力を大事にしているからこそ、10万円給付にこだわったのでは?」
「女性部が怒っている」の神話
学会は女性部の力が非常に強いとされる。昔から創価学会婦人部(21年5月「女性部」に改称)は選挙活動の実働部隊と言われてきた。60代の元創価学会員はこう指摘する。
「選挙を頑張れば功徳がある、という教えを本気で信じている人が多く、『頑張ったから夫の給料が上がった』といった話をよく聞かされた。年配者ほどその思いがあり、それが彼女たちの信仰体験なのです」
戸別訪問は、割り当てられたエリアで知人の元に赴いては雑談を交え、座が温まったところで公明党のパンフを渡すといった具合だが、時間や手間から勤め人には限界があり、専業主婦の比重が大きくなる。
話を聞きながら、私が思い浮かべたのは16年6月、東京都知事、舛添要一が辞任した朝のことだ。
「都議会のドン」内田茂が「(リオ五輪が終わる)9月まで続けたいという知事の思いを実現してあげようと思ったが、(連携相手の)都議会公明党の“合意”が得られなかった」と語った。都議会公明党が舛添辞任論に転じたのは「婦人部からの突き上げがあったそうだ」と都庁幹部が言った。その後、都知事が小池百合子になると、「婦人部が『小池をいじめるな』と怒っている」とも聞いた。
そんな「学会女性部からの突き上げ」は本当にあるのか? 別のある元学会員はこう読み解く。
「かつては憲法の本を婦人部が中心になってつくるような主体性がありましたが、この10年で彼女たちが自分たちの意思で発信することはなくなりました。今では、多くは執行部がこうだといえば、それに従うだけ」
そうした指摘を聞くと、「女性部からの突き上げ」の実態はほとんどなく、むしろ執行部の政治判断が先にあるのではと思えてくる。不人気の舛添を突き放したり、現職の小池と結託したり――政治的な選択をする際の口実として「女性部の怒り」を利用してきたのではないのか。
創価学会広報室に、10万円給付をなぜ重要視したのかを問うたが、「仮定に基づいた質問にはお答えできかねます」との回答だった。また、学会員からの要望を組織として集約したかについては、「ありません」との回答だった。
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広野真嗣さん「創価学会がヘンだぞ」全文は、文藝春秋「2022年1月号」と「文藝春秋 電子版」にてお読みいただけます。
創価学会がヘンだぞ