10月8日、批評家・日本近代思想史研究者の先崎彰容さんによる文藝春秋ウェビナー「『総理の器』とは何か――岸田ビジョンを斬る!|先崎彰容の令和逍遥 Vol.1」が開催されました。岸田文雄首相の就任会見で示された「新しい資本主義」「デジタル田園都市国家構想」といった“岸田ビジョン”、その本質とは何か。中間層の底上げ、東京一極集中の是正、「聞く」リーダー像……新総理の打ち出す未来に光はあるのか。「総理の器」を問うた講義録を一部、無料公開します。
先崎 彰容(以下、先崎) 皆様、こんばんは。この講義を見てくださっている皆さんは、一連の自民党の総裁選から岸田内閣の誕生まで、どんな印象をお持ちだったでしょうか。まず、岸田首相の評価の前に、自己紹介も兼ねて私がどんな立場の人間なのかということもお話ししながら始めたいと思っています。
「競馬レース」のような自民党総裁選
先崎 最初に、「政治不信と投票率」についてです。現在、日本の国政選挙は投票率が5割前後で停滞している。つまり、2人に1人はそもそも政治に対して興味がない。どうしたら政治に興味を持ってもらえるか、言論人は腐心しているわけですが、そう考えたとき、今回の自民党の総裁選ほど競馬レースのように耳目を集めることは近年、あまりなかったのではないでしょうか。私は競馬のレースのようと思いましたが、自民党で一番右派寄りから中道、そしてかなりリベラルな路線までという4頭立てになっていた。さらにそこに石破や二階、安倍は誰を推しているといった情報も飛び交って騒がれたという意味では、私はこれまでになく政治に興味が喚起された総裁選だったと感じています。
加えて、今回の総裁選では10万円を給付するなどの身近な政策論議だけでなく、安保の問題や、中国・台湾のTPP加入申請にどう対応すべきか、という私たちの日々の生活から遠い外交などの大きなテーマが論点として取り上げられていたのはよいことだと思います。これがまず、私の総裁選のプロセスへの簡単な振り返りです。
総裁選の結果、新総裁、そして新首相となったのが岸田文雄さんです。彼の書いた『岸田ビジョン』を例にとりながら、今日は令和・日本の国家デザインについて考えていきたいと思っています。