先崎 まとめると、ポイントは2つあります。1つは、10万円がなぜ早く給付できなかったのか。それはデジタル化の遅れです、と『岸田ビジョン』はいう。じゃあ、なぜデジタル化は遅れていたのか? それは、日本人がデジタルを使うのが遅れていて下手くそだから、興味関心がなかったからだ、という理由ではないと思います。
日本社会にあるマインドの問題として見た場合は、違う答えになる。分かりやすい具体例として、1人10万円をもらえると、子ども3人が居る母子家庭があったとするなら、そこには40万円が入ってくるわけです。これがもしデジタル化等が進んでいて、速やかに、例えば2日で支給された場合と、今回の日本のように1カ月2カ月というように遅れたかたちで支給された場合、一体、何がトレードオフになっているのか?
戦後日本と、2つの「自由」
先崎 ここには、日本人の戦後の自由というものをめぐる考え方の大きな差がある。どういうことかというと、戦後一貫して、私権制限、私の権利を制限するようなことは国家権力はやってはならないものだという基本的な考え方がこの国にはあります。そこには私たちが自由を求めている、という前提がある。しかしながら、この自由というものは私の意見では「平常時の自由」なんです。そして、この自由を謳歌する権利は、私たちの秘密を国家に明かさないということを意味しているので、結果、コロナ禍のような非常時の際には、2カ月3カ月という給付金の遅配が起きてしまったわけです。
私が言いたいことは、自由の種類には2種類あるんだということです。1つ目の自由というのは、平常時において私たちが何でも権利を侵されたくないという自由です。しかし、それを押し通した結果、今回のコロナ禍で何が生じたでしょうか。さっき言った母子家庭の4人家族が、2日後にお金を40万円受け取れるという権利を私たちは見過ごしてきたわけですね。ということは、平常時の自由を僕たちが後生大事にした結果、最も非常事態に陥った時の最も弱い人たちは、見捨てられるとまでは言わないけれども、救いの手を速やかに差し伸べられるということができないということを私たちは暗に認めてきたということです。(続く)
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先崎彰容さんによる文藝春秋digitalウェビナーでの講義動画「『総理の器』とは何か――岸田ビジョンを斬る! 先崎彰容の令和逍遥Vol.1」、および講義録全文は、「文藝春秋 電子版」でお楽しみいただけます。
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