思い立ったらすぐ行動。持ち前の前向きな性格で、生きづらさとはまるで無縁の人生を送る「浅草の伝説の女将」こと、冨永照子さん(浅草の老舗蕎麦屋「十和田」の女将)。「30億円以上の浅草ROXの建設を実現」「着物姿で大臣室に乗り込み、大臣に直談判の末、浅草にロンドンバスを走らせる」など、そのエピソードはどれも驚くものばかり。そんな女将が明かす、「人生に役立つお金の使い道」とは? 『おかみの凄知恵 生きづらい世の中を駆けるヒント』(TAC出版)の一部を抜粋。(全3回の1回め。#2、#3を読む)
お金は「儲ける」ものじゃなくて、「稼ぐ」もの
何かにつけ、「一緒にお金儲けしましょう」とか口にする人たちがいるのよね。
この手の人たちが言う「儲ける」ってさ、たいていは「楽して金を手に入れる、人を働かせてカスリを取る」って意味でしょ。
儲けるって字を二つに割ってごらんよ。「信者」ってなるじゃない。「信じる者は儲かります」とかなんとか、マルチ商法やネズミ講じゃないんだからさ。もっともらしい御託並べて、相手を信じ込ませて、結局お金だけ吸い上げようって魂胆じゃないの?
「儲ける」って言葉を聞くと、他人をあてにしたり、利用しようっていう感じする。お金は儲けるものじゃなくて「稼ぐ」もの。自分は動かずに、お金だけ欲しいって了見は卑しいよ。なんたって、「人が動く」と書いて「働く」なんだし。
最近の経営者なんかは、何かと数字にシビアだよね。コストカットで出ていくお金を減らし、入ってくるお金を増やそうと経済効率にこだわる。
確かに、結果は大事だよ。でも、儲けばかり狙ってお金を使っても、お金は少しも生きてこない。意味のないような、なんだか訳のわからないことにお金を使って初めて、お金が生きるのよ。だから私はいつも言うの。
「訳がわかったことにお金を使うのが、ビジネス。」
「訳がわからないことにお金を使うのが、のれん。」
やっぱり、義理人情とか訳のわからないことにお金を使うのが、のれんでしょ。店には売れない芸人さんたちがチラシやチケットを持ってくる。皆、お金がない人たちだから少しお小遣いをあげるのよ。そういう人たちが「十和田のおかみはいい人だ」とヨソで言ってくれる。これがのれんじゃない。
「あそこはおいしい。浅草で蕎麦を食べるなら十和田だよ」とか言ってくれる。落語家だって、ご祝儀渡すと舞台の上から「今日は帰りに十和田の蕎麦食って帰ろう」とか、漫才師なら笑いのネタにしてくれるでしょ。
でも、別に打算だけじゃないのよ。だって、助けたいじゃない、困ってる人がいたらさ。義理だとか、人情だとか、そういう訳のわからないことにお金を使う。それが自然とのれんの宣伝になり、のれんが守られていくのよ。