御年84歳。「浅草の伝説の女将」こと、冨永照子さん(浅草の老舗蕎麦屋「十和田」の女将)。客商売を通じて、これまで何万人ものお客と深い付き合いをしてきた女将だからこそ気づいた、お金の使い方が「野暮な人」と「粋な人」の違いとは? 『おかみの凄知恵 生きづらい世の中を駆けるヒント』(TAC出版)の一部を抜粋。(全3回の2回め。#1、#3を読む)
「お金で買えない大事なことを自分がやりなさい」
私は商人の子だったから、小さい頃から店の手伝いをして働いてた。で、一生懸命働くでしょ、すると母親は、「お金いくら使ったっていいんだよ」と、着物でもなんでもいっぱい買ってくれた。でも、その後に必ず、「だから働きな。働いて、お金を使え」と、ちゃんと教えた。
そして、もう一つ教わったのは、「炊事洗濯はお金で人も雇える。だからお前は、お金で買えない大事なことを自分がやりなさい」。
親の教えを守ったから、私は炊事洗濯をしたことがない。すべてお手伝いさん頼み。おかげで、自分は商売や町おこしに専念できた。ただ、これは商売人の家の環境だからね。サラリーマンじゃない、立場が違うから。
だったら、サラリーマンはサラリーマンの立場を親が教えなきゃいけない。サラリーマンの極意をね。私も出世のキモを聞いてみたいよ。上司をおだてたり、騙したり、嫌なことも我慢したから、係長とか部長になったわけでしょ。
親は、自信を持って自分の立場を子供に教えたほうがいい。そうやって教えりゃ、子供は親の仕事を馬鹿にしない。親の立場を理解していけば、子供もそのうち何かしら自分の道を見つけますよ。
下町流の粋なお金の使い方
下町の粋なお金の使い方ってのがあるのよ。
たとえば、どっかの店で食事してるでしょ。そこに誰か知り合いが入ってきた、仲間と一緒に。こっちは黙って勘定して先に店を出る。で、知り合いが帰る時に勘定払おうとすると、「もう頂いてます」となる。
あるいは同じ店で飲んでるでしょ。知り合いがいて、向こうも仲間とやってる。で、こっちが黙ってビールを三本差し入れする。そこで店員から「十和田さんから頂きました」って一言が添えられる。こういうのが、まあ下町の粋なお金の使い方っていうかさ。