もらっていいお金、いけないお金
世の中には、もらっていいお金ともらってはいけないお金がある。
お金の出し方もお金のもらい方も、要は気の遣い方がすべて。お金の出し方とお金のもらい方には、その人間の人柄が出る。
お金と人柄にまつわる話。閉館した常盤座(現在の浅草ROX・3G)を松竹から借りて、おかみさん会でイベント興行をしてた頃なんだけどね。
私を含めたおかみさん会の幹部たちが、2000万円ずつ銀行から借金して、常盤座で公演をスタートさせようとした。ところが、昭和天皇がご病気になられた。公演は即中止。陛下を恨むわけにもいかない。
私は血のしょんべんが出るわ、副会長の尾張屋さん(浅草尾張屋の女将・田中登美子 さん)は円形脱毛症になるわ。資金繰りと体調不良でとうとう進退極まったか……、みたいな状態になった時、救いの手を差し伸べてくれた人がいたのよ。
当時の台東区町会連合会会長の渡部平八郎さんから、ある日呼び出された。それで、渡部さんに会いに上野まで行ったわけ。
その時、私は完全に意気消沈してたからさ、「もう疲れたわ……」なんて、ちょっと愚痴っぽいこと口走っちゃったのよ。そしたら、渡部さんがこう言った。
「お前たち、浅草の女だろ」
私は一瞬意味がよくわからなかった。なにせ、血のしょんべんが出てるくらいだから、頭ん中にまで血が巡ってなかったのね。私は、「会長、浅草の女って、どういうことですか?」って何も考えずに聞き返した。
すると渡部さんは、「浅草の女は言ったことはやるんだ」ってビシッと言った。その言葉を聞いて、私の頭に一気に血が巡ってきた。「勇気、やる気、元気。ダメでもともと、やるっきゃない」が私の信条だったことを思い出した。
いきなり差し出されたのは……
顔の血色までよくなったかはわからないけど、少し元気になった様子の私を見た渡部さんは、「お前たち、困ってるんだろ。これを使いな」。そう言って、日銀の帯封がしてある1000万円分の札束を差し出してくれたの。もうビックリ!
それから何年後かに、常盤座の精算が終了して、渡部さんに1000万円を返しに行った。すると渡部さんは、受け取ったばかりの札束の帯封をポンと切ると、「利息だ」と言って、今度は、お金返しに行った私たちに100万円も渡してくれたのよ。二度ビックリ!
「借用書はお前たちの心意気だ」
細かいことは一切言わずに大金貸してくれて、借金返しに行ったらご祝儀までくれる。世の中には、こういう粋なお金の出し方ができる男もいるわけだ。お金の出し方とお金のもらい方には、その人間の人柄が出る。もっと言えば、人間の品格が出る。そういう話。(#3に続く)