常に周囲に心を配る、お優しい思いやり
陛下の思いやりといえば、時代も場所も異なりますがこんなこともありました。陛下は水や環境へのご関心も高いことはよく知られていますが、私が携わっていた「ダイオキシン2007国際会議」の開会式に行啓いただいた時のことです。流ちょうな英語でスピーチを賜り、世界中から集まった人々から「今大会で一番のお話だ」と言っていただき、誇りに思ったものです。
その開会式のアトラクションで、「高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト」に演奏してもらいました。高嶋さんはMCの中で、母乳保育をしている母親の一人として環境問題への関心を述べたのですが、陛下はお帰りの際、「お仕事も育児も頑張るようにと高嶋さんにお伝えください」とのお言葉を私に託されました。高嶋さんは「あのときの言葉は本当にありがたかった」といまだに感激しています。常に周囲に心を配る、陛下のお優しい思いやりは、御用掛を務めていた時からたびたび感じることでした。
いたずらっぽく「脱輪したんですって」
東宮御所に伺う際は、自分の車を運転して参上するのが常でした。ある晩、御用地の中で普段通らない道を遠回りしたところ、思いがけず道を踏み外し脱輪してしまいました。前にも後ろにも進めなくなってしまったため、暗い夜道を歩いて東宮職の方に助けを求め、大勢の方に車を助け出してもらったことがあります。
誰が報告したのでしょうか。次にお目にかかった際、陛下はいつも通りで何もおっしゃいませんでしたが、皇后さまは「脱輪したんですって」といたずらっぽくお尋ねになり微笑まれました。陛下は陛下らしい気配りをされ、皇后さまは周囲の者の失敗にも優しく接してくださる。まったくお恥ずかしい話ですが、そんな前向きな解釈をして自らを慰めました。
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山王病院名誉病院長・堤治氏による「愛子さま20歳『ご誕生の瞬間』」の全文は、「文藝春秋」2022年1月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
愛子さま20歳「ご誕生の瞬間」
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