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時代をみごとに可視化

 こちらのシリーズでは、素となる写真のネガ・ポジが反転させてある。それにより多少イメージが判別しにくくなった画面上に、かなり念入りな刺繍が施されていく。色合いは沈んだものとなり、人物のシルエットは無数の糸でかき消され、何やら「存在の不安」まで感じさせる仕上がりとなっている。

 それでもそこに人物、というかモンスターがたしかに存在することは感じられて、「わたしはここにいる」と強く訴える声もしかと観る側に届いている気がする。

 ああ、これが現代の空気感なのだろう。清川あさみの新作は、時代をみごとに可視化して、わたしたちに提示してくれているのだった。

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アートは「時代」を捉えるのにうってつけ

 展示は空間の四方にぐるりと壁を立て、その外側と内側の双方を用いて展開されている。外側には雑誌「STREET」の表紙(1980年代から2020年代)に刺繍を施したTOKYO MONSTER COVERSや版画、⻄陣織作品が並び、内側で新作の「TOKYO MONSTER(2020-)」が観られるというかたち。東京という街の、また人々の心象の変化をはっきり読み取れて、すこぶる興味深い。

 壁の外側と内側の作品群がそれぞれまとまって、2枚の「時代の肖像」を描き出しているような印象がある。そうかアートとは、「いま」を表現するのに最適な表現形態なのだと感得させられた。