私たちは、事前に規制当局と話し合い、それよりも少し高い15%を対照値(試験結果と比較する数値)とする合意をしていました。臨床試験の結果を何と比較して評価するかを決めるときには、一般的にはチャレンジする側(この場合は私たち)が不利になるよう設定され、それを超えれば認めてもらえる、というしくみになっています。
しかし、私たちが出した結果は、対照値の15%に比べて格段に高く、G47Δに高い治療効果があることが確認されたのです。
新型コロナウイルスワクチンとよく似た副作用
G47Δによる治療効果の有効性が確実となったため、この時点で、第Ⅱ相臨床試験は「有効中止」となりました。つまり、もうこれ以上試験をしなくても、被験者の4割が治療開始後1年生存するのは確実だ、ということになったのです。臨床試験が有効中止になることはめったにありません。私も他に、このような例を知りません。
有効中止となったため、最終的な被験者の総数は19人になりました。
この19人が治療開始後に生存した期間の中央値(※2)は20.2ヵ月、治療開始後に1年生存した患者さんは19人中16人でした。MRI画像上の経過観察2年間における腫瘍縮小の最良効果は、部分奏功が1人、安定が18人でした。
一方、安全性については、入院の延長が必要となる副作用が出た患者さんは1人のみで、主な副作用としては発熱が17人と最多でした。定位脳手術でG47Δを腫瘍内に注入すると、ほとんどの患者さんは、腫瘍そのものが腫れて、熱が出ます。新型コロナウイルスワクチンを打ったあと、腕が腫れて発熱するのとよく似ています。
なお、FIH試験も含めて、患者さんに抗ウイルス療法薬を投与しなければならないような有害事象はまったくなく、そのようなことを考慮する場面すらありませんでした。
(※2)中央値:数値データを大きい順に並べたとき真ん中に位置する値。データの総数が奇数個なら真ん中に位置する数値(データ総数が21個なら11番目に大きい値)が中央値となる。データの総数が偶数個なら、中央に位置する2つのデータの平均(データ総数20個なら、10番目と11番目の数値を足して2で割ったもの)を中央値とする。
3人の患者さんが3年以上生存
第Ⅱ相臨床試験の被験者となった患者さんは、2021年11月現在、3人が生存しています。経過観察は基本的に3ヵ月ごとに行なっていますが、毎月通院してくる方もいます。3人とも治療開始から3年以上経過していますが、再発の兆しは見られません。