この臨床試験では、G47Δの投与回数が患者さんによって異なり、最大回数の6回を投与した方は、19人中12人でした。6回投与しなかった理由はそれぞれで、腫瘍が小さくなって投与をやめた患者さんもいますし、病気が進行して試験を続行できなくなった方もいます。
たとえば、Hさん(20代・女性)は、膠芽腫の進行が非常に早く、3回目の投与のあと、試験を続行できなくなりました。臨床試験では、効果がみられない薬をいつまでも続けるわけにはいかないので、必ずこのような設定になっているのです。
投与の中止が決定する頃から、Hさんは「もう治療はいいです」と言いはじめ、ご両親も「最期は娘の自由にさせてやりたい」とおっしゃっていました。本人もご家族も、はじめから半ば諦めていたのかもしれません。
Hさんは、あまり熱心に通ってこなくなりました。どうしているのだろうかと案じていましたが、本人とは直接連絡もつかず、最後は地元の病院で亡くなったとご両親から聞きました。
入浴中の事故死
一方で、治療がうまくいっていた患者さんが事故で急死されたこともありました。
Iさん(50代・女性)は、G47Δが非常によく効き、「これは治癒するのではないか」と思うほどでした。ところが、6回目の投与を終えて19ヵ月経ったあと、自宅で入浴中に、湯船の中で亡くなってしまったのです。
入浴中の溺死は、脳腫瘍の患者さんに時々あることです。私の患者さんのなかにも、そういう方が複数いました。
膠芽腫に限らず、脳に腫瘍ができたり転移したりすると、患者さんは意識障害の症状の一つとしてすぐ眠るようになったり、てんかん発作を起こしたりすることがあり、入浴中に意識を失う確率が普通の人よりずっと高いのです。
不慮の死は本当に残念なこと
そのため、医者はしばしば、「入浴するときはお湯を胸よりも高い位置に入れないでください」「湯船を浅くするなどして、身体が滑って沈み込んでも鼻と口が出るようにしてください」「できれば誰かに見守ってもらいながらお風呂に入ってください」などと、患者さんや家族に警告しています。
治癒も期待されていただけに、Iさんの不慮の死は本当に残念なことでした。
ご主人は大きなショックを受けたにもかかわらず、Iさんが亡くなるとすぐに連絡してくださり、病理解剖をするためにご遺体を東大医科研病院まで連れてきてくれました。
この臨床試験では、亡くなった患者さんのご遺族が病理解剖を申し出てくださった例がいくつもありました。臨床試験に参加できたことから、そのような義務を感じ、「医学の進歩のために」と決断してくださったのだと思います。