2021年6月、世界で初めて脳腫瘍を対象とした「がん治療用ウイルス薬」が日本で承認された。人類の「敵」と見なされがちなウイルスを「味方」にするという画期的な発想から生まれた「G47Δ(一般名=テセルパツレブ)」は、標準治療に比べて副作用が少なく、あらゆる固形がんに適用できる。
そんな従来のがん治療を根本的に変えうる、全く新しい治療法を確立した臨床医・藤堂具紀先生による『がん治療革命 ウイルスでがんを治す』から一部抜粋して、新しい治療薬G47Δ(ジー47デルタ)の臨床試験の結果を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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腫瘍内投与の安全性を確認、1年生存率は4割に
FIH試験は2014年11月に終了し、G47Δの脳腫瘍内投与は安全であることが確認されました。
長期的な腫瘍縮小としては、「完全奏功」が1人(Eさん。その後、再増大)、「部分奏功」が1人(Fさん)でした。
長期的な効果としては、13人の患者さんのうち、ウイルス療法開始後に1年以上生存した方は5人(1年生存率約4割)、そのうち3年以上生存した方は3人(3年生存率約2割)でした。そのうちの1人が、11年以上も生存しているFさんです。
Fさんは、この臨床試験が終わってからも、身の回りのことはほとんど自分でやり、元気に生活していましたが、70代になってから介護施設に入所されました。身体活動が低下し、あまりしゃべらなくなったようですが、これは加齢のためだけでなく、おそらく放射線の後遺症もあるのではないかと思います。
膠芽腫に対する放射線治療は、「患者さんが5年以内に亡くなる」という前提のもとに、脳が耐えられるギリギリの量の放射線をかけるのが一般的です。
長期生存は想定されていないので、Fさんのような場合、放射線の影響がかなり強く出てしまいます。脳の老化にたとえれば、80代、90代になって起こるようなことが、もっと早くから起こることもあります。Fさんがあまりしゃべらなくなったのも、そのためではないかと思われます。
評価期間を終えたあとのFさんは、ご主人に付き添われて半年に一度ずつ、欠かさず外来に通ってきていました。コロナ禍のために通院できなくなってからは、ご主人が3ヵ月ごとに、メールでFさんのようすを知らせてくださっています。
G47Δの有効性を検討する第Ⅱ相臨床試験は、医師主導治験として2015年5月から2020年4月まで行なわれました。