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「1年生存した患者は19人中16人」人類の「敵」と見なされがちなウイルスを「味方」に、新しい治療薬G47Δの驚きの臨床試験結果

『がん治療革命 ウイルスでがんを治す』より#2

2021/12/21

source : 文春新書

genre : ライフ, 読書, 医療

 医師主導治験とは、新薬の実用化に結びつく治験を、製薬企業ではなく医者自らが行なうことで、2003年施行の旧・薬事法の改正によって可能になりました。ちなみに、旧・薬事法が「薬機法」と名前を変えて施行されたのは、偶然にも、私たちがFIH試験を終了したのと同じ2014年11月です。

 製造販売承認申請をするために提出するデータは、薬機法に基づく治験のものでなければならないという決まりです。ところが、薬機法における治験は、製薬会社が行なうことを前提としており、医師が行なう治験外の臨床試験は「臨床研究」とされ、治験とは明確に区別されています。つまり、どんなに臨床データがあったとしても、臨床研究で行なった場合は製造販売承認申請のデータとして認めてもらえないのです。そのため、我々はすでに第Ⅰ・Ⅱ相に相当する臨床試験をしているにもかかわらず、製剤化を目指すならば、薬機法に基づく治験を第Ⅰ相からやり直さなければいけないというのが当時のルールでした。

 しかし、研究者が主導したとはいえ、臨床研究も患者の参加を得て行なったものであり、G47Δの場合は、治験薬も同じものを使います。

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「同じ治験薬を使うのに、これまで積み上げてきた臨床データが何の役にも立たないというのは、どう考えても不合理です。今回の医師主導治験は、これまでの臨床研究のデータを参考にして、第Ⅱ相から始めていいはずです」

 と、私たちは治験の審査を行なう医薬品医療機器総合機構に対して訴えました。前例のないことなので、かなり議論しました。

 結果的に、医薬品医療機器総合機構は「第Ⅱ相から始めていいだろう」という見解に達しましたが、条件をいくつか示してきました。

「新たな道を拓いた」という思い

 その一つは、G47Δの投与方法を第Ⅰ相臨床試験と同じにすること。つまり、定位脳手術で腫瘍部分に注射器で注入するという方法です。

 この方法だと、固まりとして注射針を刺せる標的がなければならないので、対象疾患は残存腫瘍(手術で取りきれなかった腫瘍)か、再発した腫瘍になります。私たちとしては、なるべく早い段階で腫瘍を取ったところにG47Δを打つのが一番効果的だと思っていたので、そういう試験もやりたかったのですが、その場合は治験を第Ⅰ相から始めなければならない、ということでした。

 第Ⅰ相から始めれば4~5年余計にかかり、「G47Δの実用化」という目標達成がそのぶん遅れてしまうため、この条件に同意せざるを得ませんでした。