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「1年生存した患者は19人中16人」人類の「敵」と見なされがちなウイルスを「味方」に、新しい治療薬G47Δの驚きの臨床試験結果

『がん治療革命 ウイルスでがんを治す』より#2

2021/12/21

source : 文春新書

genre : ライフ, 読書, 医療

「その代わり、治験が終わってG47Δが有効と確認された段階で、定位脳手術でなければ効かない、などと言わないでください」とお願いしましたが、「それは結果を見てからにしましょう」という答えでした。

 このような苦労もありましたが、治験を第Ⅱ相から始めたのは日本では初めてのことで、「新たな道を拓いた」という思いが私たちにはあります。

「有効中止」となった第Ⅱ相臨床試験

 この臨床試験は、初期治療のあとに腫瘍が再発したか、腫瘍が残ってしまった膠芽腫の患者さんを対象としました。FIH試験の対象となった患者さんよりも病状が一歩手前の方々、言葉を換えれば、「予後は悪いが、治療効果が出る可能性のある患者さんたち」です。

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 患者さんが受けている標準治療(手術後の放射線照射と「テモゾロミド」による化学療法)に、G47Δによるウイルス療法を上乗せします。G47Δの投与方法は、前項で述べたように定位脳手術による腫瘍内投与です。

 一定量(10億個)のG47Δを、1回目と2回目は5~14日間隔で、3回目以降は4週間間隔で、毎回、腫瘍の異なる部位に繰り返し投与します。投与回数は最大6回で、治療終了後は2年間、患者さんたちの経過を観察します。

 被験者数は30人を予定していました。また、13例目の患者さんの治療開始から1年経過した時点でその13例で中間解析を行ない、試験の中止・継続を判断する計画が組まれていました。これ以上試験をしてもG47Δの効果がないとわかった場合は、この臨床試験そのものを中止し(無効中止)、これ以上試験をしなくても確実に有効だとわかった場合にも中止する(有効中止)、それ以外は試験を継続するという計画で、臨床試験としては一般的です。

被験者30人の4割に当たる12例が1年生存していれば有効に

 そのためには、有効か無効かを判断する基準をあらかじめ設定しておく必要があります。この臨床試験は、予定されている被験者30人の4割に当たる12例が1年生存していれば有効になるという設定で計画されました。この「4割」というのは、FIH試験の1年生存率が約4割だったことに基づいています。

 中間解析は2018年7月に行なわれました。

 そして、治療開始後1年間生存した患者さんの割合は、92.3%(13例中12例)という、非常に高い値になったのです。

 標準治療の場合、再発した膠芽腫の患者が再発後1年間生存する割合は、14%ほどです。この数字は、過去に実施された複数の臨床試験結果から算出されたものです。