「まだまだ100ではない」
大谷自身にも、確かな手応えは残った。前半戦を「リハビリの段階」と振り返り、終盤に入っても、「まだまだ100ではない。体的にも、もっと上に行けるんじゃないかと思っているので」と、さらに「伸びしろ」があるとの感触を口にした。27歳のシーズンを「まだ100ではない」と捉える大谷にすれば、46本塁打も9勝も、おそらくひとつの目安に過ぎない。
その一方で、21年に大谷が残した功績は、数字だけでは計れない。20年ナ・リーグMVPのフレディ・フリーマン(ブレーブス)は、高校時代、時速155キロの速球を投げる才能を持ちながら、07年のドラフトでは打者として2巡目で指名され、スラッガーへの道を歩んだ。
「誰もが翔平がやっていることをできるとは思わない。だが、少なくとも二刀流への扉は開かれたことで、より多くの選手がこういう機会を与えられるようになるだろう」と、将来的にメジャーを目指す若者のモデルケースになると称賛する。
「二刀流」の祖と言われるベーブ・ルースは、レッドソックスに在籍した1919年までの6年間で投手として4年連続2桁勝利を挙げた。その後、ヤンキース時代の15年間はほぼ打者に専念し、通算714本塁打をマークした。
今後、大谷が「二刀流」としてどこまで数字を積み上げていくのか。1世紀以上前にプレーしたルースと、大谷を数字上で比較することは可能かもしれない。ただ、セイバーメトリクスなど野球のデータ化が進む近代野球で、野球少年たちの「夢」とも言える「二刀流」を体現した大谷がもたらしたインパクトの強さは計り知れない。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。