「ほかにも日本一を“目指さない”チームが出てくれば、一気に流れが変わる気がするんですけどね」
吉野至はいま、日本のアメリカンフットボール界について、そんな風に考えている。
「だって日本一を目指すことにどこまでバリューがあるんでしょう? スポーツが持つ本当の価値について、各チームが考えないといけないと思うんです――」
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「すべてのチームが日本一を目指す必要はあるのか?」
吉野は現在、九州を拠点とした社会人アメリカンフットボールチーム・イコールワン福岡SUNSの代表を務めている。
これまでのSUNSの快進撃は驚異的だ。
2017年に創部し、社会人アメフトリーグ(Xリーグ)の最下層である3部リーグに参戦。すると、九州という地理的なハンデをものともせずに、2年間全勝優勝を続け、昇格を重ね2019年に1部リーグへ。そして今年、創部からわずか5年目で国内リーグの最高峰であるX1-SUPERリーグへの昇格を決めた。
もともとSUNSは吉野がイチから創部したチームだ。
部員を勧誘し、スポンサーを募り、集客のためにビラを撒くこともある。いまでも吉野自身がチームの球団社長であり、監督であり、現役の主将でもあるという3足の草鞋を履いている。
なぜ、そんな状況にありながらSUNSはこれほど急速に成長を遂げることができたのだろうか?
ステレオタイプに考えてみれば、よくある「若手起業家像」を想像してしまう。
「気鋭の熱血若手起業家がスポーツへの熱意と情熱を武器に、大目標をぶち上げる。仲間とスポンサーを口説き、九州の地で日本一を目指すスポーツチームを作り上げた――」
そんなイメージだろうか。ビジネス雑誌にありそうな社長の姿は、容易に想像できる。
だからこそ、冒頭の「すべてのチームが日本一を目指す必要はあるのか?」という吉野のストレートな問いかけには驚きを感じた。「イマドキのスタートアップ社長」にありがちな大言壮語を、あえて否定してみせたからだ。
そんな風に話を聞いていくうちに、SUNSが成功できた理由として最も感じたのは、熱意や情熱だけでない吉野の持つ“リアリズム”だ。