その背景には、8年弱の自民党総裁時代にアメと鞭を使って、徹底的に議員たちを締め付けてきたことがあるでしょう。「小選挙区制度になって議員は党中央の意見に逆らえなくなった」とよく言われますが、その通りです。公認権とお金を握っている党の幹部の権力はますます強くなっているのです。さらに、国政選挙に勝ち続けたわけですから、表立って反対をする人は少ない。「高市さんをよろしく」と安倍さんに声をかけられたら、断れない人がたくさんいた理由です。
結果として、高市さんは下馬評を覆し、議員票で河野太郎さんを上回る2位となり、その影響力を見せつける恰好になりました。
“甘利明幹事長”は1年越しの「安倍人事」だった
普通なら高市さんを支持した安倍さんは総裁選で負けたことになりますが、そうはならないのが、今の自民党です。派閥の枠を超えて安倍さんの意向を重視する議員がいるのを見せつけたことで、むしろ大きな力になりました。
影響力の一端が明らかになったのは甘利明さん(麻生派)の幹事長就任でしょう。「安倍さんの意向を無視して、岸田さんがこの人事を実現した」との解説もありますが、事実はまったく違います。2016年に週刊文春が報じた金銭授受疑惑で安倍内閣の閣僚を辞した甘利さんを、安倍さんはずっと復権させようとしていました。2020年の菅内閣誕生前夜、私は安倍さんから直接、「次の幹事長には甘利さんがいい」との持論を聞きました。結局、その時は、二階(俊博)幹事長が留任し、甘利幹事長とはなりませんでしたが、今回は実現した。つまり、1年越しの「安倍人事」だったのです。
「ホンネの代弁者」高市政調会長
さらに総裁選で右派層から強力な支持を得た高市さんが、政務調査会長に就任したことで、安倍さんの強いカードとなりました。
意外に思うかもしれませんが私は、高市さんの主張は、良いか悪いかは別にして今回の総裁選の候補の中で最も筋が通っていると感じています。安保、外交をとっても、自主防衛とも取れる安全保障構想、対中の強硬姿勢などは一貫しています。