2021年も破竹の勢いだった藤井聡太竜王(19)。2021年11月、史上最年少で四冠を達成した。藤井の活躍について、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』より、勝又清和七段の寄稿を紹介する。(年齢、肩書等は2021年11月時点)。
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藤井聡太が異次元の活躍を続けている。デビューから5年、通算勝率は8割を大きく超え、2021年9月には叡王を獲得し、王位・棋聖とあわせて史上最年少で三冠となった。
藤井は2019年に2つの痛い敗戦があった。C級1組順位戦の近藤誠也五段戦と、勝てば挑戦者となった王将戦挑戦者決定リーグの広瀬章人竜王戦だ。この二戦が大きな岐路になったと私は考える。
広瀬戦での逆転負け以後、持ち時間の使い方を改善
居飛車で先手が主導する戦型は「角換わり」「矢倉」「相掛かり」の三つに大別される。藤井は先手では「角換わり」を得意としていて、ずっとこの戦型を中心に、高い勝率をあげていた。しかし、近藤に角換わりを研究し尽くされて敗れ、順位戦の昇級を逃した。そこで「矢倉」も時折、採用するようになった。広瀬戦では矢倉を選択して勝利目前としたが、時間に追われて玉を逃げ間違い、逆転負けを喫した。以後、持ち時間の使い方も改善し、終盤に時間を残すようにしている。
2020年6月、渡辺明に挑戦した棋聖戦第一局では、矢倉を選択した。これが角換わりを予想していた渡辺の意表をつき、序盤から藤井がペースを握る。そして終盤に時間を残し、プロ棋士も唸らせる絶妙手でタイトル戦デビュー局を飾った。結果、3勝1敗で棋聖を奪取したが、シリーズ中、唯一の敗戦は、渡辺が角換わりを90手近くまで研究した結果だった。
ディープラーニング(DL)系AIを導入
木村一基王位に挑戦した王位戦七番勝負でも第三局で矢倉を選び、4連勝で奪取した。矢倉の採用と時間の使い方の改善がタイトル獲得につながったのである。
こうして藤井は二冠となったが、その後、王将戦リーグを陥落するなど調子を落とした。本人も「9月頃は状態の悪さを感じていた」と語っている。ここで藤井は新たなチャレンジをする。ディープラーニング(DL)系AIを導入したのだ。DL系はゲームのルールのみ与えると、自力で強くなるというもので形勢判断が既存のAIとは全く違う。しかも画像認識の技術を使っているためGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)が必要だ。導入するのも理解するのも大変なのだが、藤井はパソコンの高い知識と対応力で難なく取り入れた。そしてDL系AIが得意とする「相掛かり」の採用に踏み切る。