原動力となった「相掛かり」
2021年夏、棋聖戦の挑戦者には三冠(名人・棋王・王将)の渡辺が、そして王位戦の挑戦者には二冠(竜王・叡王)の豊島将之が名乗りを上げた。また、藤井自身が豊島叡王の挑戦者にもなって三つのタイトル戦を戦うことになった。
当代最強とされる二人との対戦だけに、苦戦を予想した棋士も多かったが、藤井の成長は予想をはるかに超えていた。
棋聖戦は3連勝で渡辺を圧倒する。そして豊島との戦いも王位戦は4勝1敗で難なく防衛し、叡王戦も3勝2敗で奪取した。渡辺に1勝もさせず、それまで1勝6敗だった豊島を相手に7勝3敗という結果を残すとは、思ってもみなかった。その原動力となったのが「相掛かり」だ。
数字上は将棋の神に近づいている
藤井は三つのタイトル戦の先手番7局中4局で相掛かりを採用し、3勝1敗と結果を残した。ちなみに2021年2月に初めて先手で相掛かりを採用してからの成績は驚異の13勝1敗である。
とはいえ三冠になった決め手はDLでも相掛かりでもなく、終盤力だ。NHK杯将棋トーナメントに形勢評価用のAIを提供しているエンジニアの山口祐さんが藤井将棋のパフォーマンスレート(PR)を分析した。PRとは棋士の指し手とAIの手の勝率の差の平均をとったもので、1手あたり何パーセント勝率が下がるのかを調べたものだ。数値が低いほどAIに近いことになる。
終盤のPRを調べたところ、藤井の2020年5月~2021年5月は1.6だった。ところが2021年の豊島との王位戦、叡王戦の10局を分析したところ、豊島が1.2だったのに対し、藤井はなんと0.59だった。豊島の1.2もものすごいのだが、藤井の0.59はちょっと信じがたい数値で、数字上は将棋の神に近づいている。