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M-1は“ボケの時代”に突入した? 松本人志の審査基準に見る「錦鯉優勝」の決定的理由《オズワルド、ハライチも…》

2021/12/21

genre : エンタメ, 芸能

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 漫才とは、ボケとツッコミの組み合わせで笑いを生む話芸である。だが、ボケとツッコミとひとくちに言っても、そこには無限に近いほどのバリエーションがある。

 近年の若手漫才シーンでは、どちらかと言うとボケよりもツッコミの存在感が強い漫才の方が主流だった。2019年の『M-1グランプリ』で優勝したミルクボーイの漫才でも、ツッコミの内海崇がどんどん話を広げていくところが軸になっていた。同じ年に決勝に進んだぺこぱの漫才も、ツッコミの松陰寺太勇がボケを否定せずに受け入れるスタイルが革新的で話題になった。

 2018年の『M-1』で優勝した霜降り明星の漫才でも、せいやのボケに対して、粗品が説明を兼ねた鋭いツッコミをいれて笑いを起こしていた。

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 2020年の『M-1』でも、おいでやすこが、東京ホテイソン、ウエストランドなど、ファイナリストにはツッコミが強いタイプの芸人が多かった。優勝したマヂカルラブリーは例外で、彼らの漫才ではやたらと動き回るボケの野田クリスタルの方が目立っていて、ツッコミの村上は脇役に徹していた。

優勝した錦鯉の長谷川雅紀(左、ボケ担当)と渡辺隆(ツッコミ担当) ©山元茂樹/文藝春秋

“ボケ強めの漫才”で勝負したハライチ

 しかし、今年の『M-1』ではそれがガラッと変わり、ランジャタイ、錦鯉、インディアンスなど、ボケの存在感が強いコンビが目立っていた。また、敗者復活戦から勝ち上がってきたハライチも、決勝で披露したのはボケが強めの漫才だった。彼らはツッコミの澤部佑がボケに対して延々とノリ続ける「ノリボケ漫才」で世に出ていて、ツッコミが強めの漫才を得意としていたのだが、今年はボケ強めの漫才に切り替えていた。

 ハライチ以外でも、もともとツッコミ強めの漫才をしていた芸人が、ボケの方を際立たせるケースが目立っていた。ゆにばーすも、従来はツッコミの川瀬名人の方が目立っていたのだが、久々に決勝に返り咲いた今年は、ボケのはらが前面に出てきて、川瀬と対等に話を進めるようになっていた。

 3年連続決勝進出のオズワルドも、今までは伊藤俊介のクセのあるツッコミが売りだったが、今回はそれが抑え気味になり、その代わりにボケの畠中悠の不気味なキャラクターが強く打ち出されていた。その結果、漫才としての完成度はますます高くなり、笑いの量も増えた。彼らは1本目の漫才でうねるような大爆笑を起こし、ファーストラウンドを首位で通過した。