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眠っていた男性に「触りましたよね」 電車内で目撃した“偽装痴漢”の一部始終

眠っていた男性に「触りましたよね」 電車内で目撃した“偽装痴漢”の一部始終

2022/01/03

genre : ニュース, 社会

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 そして電車が駅に停車するタイミングで、元直線は男性の頭を迷惑そうに肩で小突き、さっき自分の腰に回した男性の腕を掴み、男性の肩あたりをバンバンバン!と激しく叩きはじめた。突然叩き起こされて状況を理解できていない男性に対して、元直線は何かを話している。最初の方はよく聞き取れなかったが、男性の腕を引っ張りながら「触りましたよね、降りて駅員さんのところに行きましょうか」と言っているのが聞こえた。

もし男性が引きずり降ろされるようなら

 やはりこれは、痴漢の偽装工作ではないか。元直線は立ち上がって男性の腕を引っ張り、無理やり開いているドアから駅のホームへと降車させようとしている。周りにいる人はまだ大半が眠っていて、何が起きているのか把握していない様子だった。もし男性が引きずり降ろされるようなら、私もここで下車して、駅員に先ほどの動画を見せながら一部始終を説明して、彼の無実を証明しなくてはならない。

 そう思って腰をあげようとした瞬間、男性が「ぶあっ!」と大きく声をあげた。おそらく無意識にだろうが、一瞬ひるんだ元直線の腕を振り払い、自分が座っていた座席に再度どっかりと腰を下ろすなり「目覚めた! 大丈夫! ありがとうございます!」と呂律が回らないながらもそう言った。どうやら、酔っている自分を介抱してくれているものと勘違いしているらしい。開いていたドアが閉まり、何事もなかったかのようにまた、電車は動き出した。

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被害に遭った男性は泣き寝入りせざるを得ないであろう

 再び眠り始めた男性を、立ったままの元直線が口を開けて見下ろしている。顔面に大きく「落胆」と書いてある気がした。元直線はため息交じりに座席に座り、つまらなさそうに腕を組んでまた頭を垂れて眠り始めた。それから彼女が電車を降りるまでの10分ほど、また何かあるのではないかとヒヤヒヤしつつ見守っていたが、幸い男性はパーテーションに頭を預けて眠っており、元直線もまた、再び何かを仕掛けることはなく数駅先で電車を降りていった。

 仕事関係の知人男性にこの話をしたところ「本当に怖い、二度と電車で寝ない」と怯えていて、近くにいた同僚男性を呼び止めてまで注意喚起と、周知徹底に努めていた。痴漢の偽装工作をして男性を脅し、金銭を要求する事件があるのは以前から知っていたが、今回それを目の当たりにしたことで、事件化して報道されるのはほんの一部であり、多くの場合は被害に遭った男性は泣き寝入りせざるを得ないであろうことが身に沁みてわかった。女性である私も含めて、誰しも他人事ではない、と思う。

 痴漢の偽装工作にはこうした手口がある、ということだけでも知ってもらえれば幸いである。

眠っていた男性に「触りましたよね」 電車内で目撃した“偽装痴漢”の一部始終

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