松鶴のすごさを知ってほしい
「らくだ」を始めたのも、東西の落語家による「六人の会」(小朝・鶴瓶・立川志の輔・春風亭昇太・林家正蔵・柳家花緑)主催の落語会に際し、小朝にやらないかと言われたのがきっかけである。このために松鶴をベースに、色々な落語家の「らくだ」をカセットテープに入れて持ち歩くようにした。2007年には「鶴瓶のらくだ」と題して全国ツアーも行った。そこには、自分は恥をかいても松鶴の「らくだ」のすごさを世間の人たちに知ってほしいという思いがあった。
テレビ・ラジオでのキャリアに加え、落語の腕前からいっても、すでに大御所に担ぎ上げられてもおかしくない立場にある。しかし鶴瓶はそれを良しとしない。最近の対談では、《「大御所」って線を引かれたら悲しいな。(中略)年齢的に自然とそういう枠に入ってしまうんやろうけど、もっと、扱いは雑でいいのよ。ボロカスに言ってほしいくらいやわ。(中略)知らぬ間に偉くなってしまって、いじられなくなって悲しそうな人を、今まで何人も見てきたわ》と話している(※5)。
たしかに、いまだに彼はテレビで後輩たちからしょっちゅういじられている。今年8月に、フジテレビで2夜にわたり放送された特番『FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~』では、親しい中居正広から生放送中に突然、翌日に出演してもらえないかと電話で頼まれた。このとき、中居からいまどこにいるのかと訊かれ、鶴瓶が「家や!」と答えたのがスタジオにいた松本人志たちになぜかウケて、出演を約束するまでに何度も話を振られては言わされていた。
いまなお後輩にいじられ続ける人柄
落語を究めながらも、同時に後輩たちからいじられ続ける。それは鶴瓶自身が、師匠の6代目松鶴をいまなお尊敬しながら、その豪放磊落なキャラクターをネタにし続けているのと同じことなのかもしれない。
俳優で落語にも造詣の深かった故・小沢昭一は、かつて鶴瓶との対談で、《六代目のあの感じを、野放図さも含めて(笑い)、一番引き継いでおられるのは鶴瓶さんですよ、本当にね。落語というものは、お年を召せば召すほど味わいが深くなるもんだと思うんですよね。しかも、どんどん六代目松鶴師匠を背負ってやっていただくと、ますます冴えるんではなかろうかなと》と絶賛し、最後を《独白――この人はいずれ上方落語の伝統を背負うな、ウン》と結んでいた(※4)。