落語家の立川談志が亡くなって10年が経つ。破天荒な人柄で世間を騒がせることも少なくなかった同氏だが、弟子の中で一番長い時間を共にした立川キウイ氏は、“普段の談志”をどのように見ていたのだろう。

 ここでは、16年半におよぶ前座生活の間、立川談志を側で見守り続けた立川キウイ氏の著書『談志のはなし』(新潮新書)の一部を抜粋。政治家引退時の裏話、弟子ビートたけしとの交流など、立川キウイ氏だから見ることのできた“談志の素顔”を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

©️文藝春秋

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「公務と酒とどっちが大事なんですか?」「酒に決まってるだろ!」

 師匠はその昔、政治家だったこともあります。71年に参議院議員に最下位で当選。

「トリは一番終いに出る」

 政治家になってもシャレを忘れない師匠でした。

 そして出世して沖縄開発庁の政務次官まで務めましたが、わずか36日間でクビ。原因は酒でした。二日酔いで会見に出たんです。何やら赤ら顔で酒くさく、目がウサギさんなのを隠す為に色の濃いサングラスをしてたんだとか。

「松岡(師匠の本名)さん、公務と酒とどっちが大事なんですか?」

「酒に決まってるだろ!」

 その発言が問題になり、辞任となりました。

 そりゃそうですよね。

「あの会見な、記者が沖縄の失業率は何パーセントですか? 沖縄の面積はご存知ですか? 色々やたら聞くんだよ。俺はクイズ番組に出てんじゃねぇやって、答えられない俺をネタにしようとする魂胆が丸見えで腹ぁ立ったのが動機なんだよ。そこへ持ってきて二日酔いだったから、向こうはシメシメってなもんだ」

 騒動について、僕は師匠からそう聞いてました。そしてそれが今日の談志の芸の在り方を決めるキッカケになったとも話してくれました。

「政務次官をしくじった談志」出ただけで、ドッカーン

「クビになった当時、浅草演芸ホールに行くと呼び込みが“さぁさぁ、いらっしゃい。これから政務次官をしくじった談志が出ますよ”って客引きしてやがった。そしたら本当に俺が出ただけで、ドッカーンって天井が抜けるようにウケるんだな。そこで俺は上手いの下手だのは関係ないと確信した。芸はその演者のパーソナリティや存在なんだな。だからお前もどこで何がどう引っかかるか判らんぞ。例えば俺が落語やってるとこにお前が殴りかかってくるとかな」

 よくそんな話をしてくれて、この時、それが原点で師匠はお騒がせを立川談志で起こす演出家になったんだなと思いました。