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紅白は「打ち切り危機」をどう乗り越えてきた? オワコン説とともに進化してきた“苦闘の歴史”

J-POPから見るニッポン

2021/12/27

2018年、米津玄師の衝撃

「千本桜」には感動したが、だからといってYouTubeやニコ動から出てくる大ヒット曲や歌手を覚える気にはなかなかならず。それを打ち破るきっかけをくれたのは、やはり紅白だった。

 2018年、「Lemon」を歌った米津玄師である。なぜこれまで彼の歌を「YouTubeから火が着いた」というだけで聴こうとしなかったのか! 己の凝り固まった価値観を恥じた。

 どんどん新しいヒットの入り口が出てくる――。紅白は私にとってもう、知らない音楽を知る良いチャンスとなっている。2019年には「ストリーミングチャート」「サブスク再生回数」という新たな音楽のヒット形式が評価され、Official髭男dism、King Gnuが出演、こちらも紅白で初めて聴いた。今では大ファンである。今年は、まふまふとAwesome City Clubが楽しみ。敢えて予習はしない。紅白まで取っておくのだ! 特にまふまふの歌唱曲『命に嫌われている。』はタイトルも衝撃的。どんな曲なのだろう。心の準備をしておこう。

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 サブスクリプションの普及はナツメロにも光を当てている。何十年も前に流行ったシティポップが世界的ブームになる流れから見ても、昭和歌謡・ポップスの紅白出場リクエストは間違いなく増えていくだろう。

 だから特に卒業を宣言した大御所の方も、いつでも撤回し出場してほしい。「特別枠」という便利な枠を活用しない手はない。今年は細川たかしが6年ぶりに出場する。布施明と五木ひろしの再登場も多くの人が待っているはず!

氷川きよしとMISIAから見る“紅白問題”

 さて、そんな近年の紅白で大きな課題が「紅」と「白」という区分けである。2019年の紅白は、そのボーダーを外していくタイミングが、ぼんやりながら見えた回だった。

 まず白組の氷川きよしが麗しい衣装とメイクで登場。自らイメージをぶっ壊して羽根を広げた感があり、ものすごい迫力だった。歌もとんでもなく上手いし、もう感動するしかない状態。「紅白限界突破スペシャルメドレー」はまさに、紅と白の限界を超えたステージだった。

今年も紅白に出場する氷川きよし ©文藝春秋

 そして紅組のトリで登場したMISIA。レインボーの旗を掲げ、ドラァグクイーンたちが華麗に踊り、「解放」を感じさせた。

 彼女は今年も大トリである。そのおおらかな歌声で、今年も、新時代に希望を!

 とはいえ、簡単に「ハイ、変わりました」というわけにはいかない、とてもセンシティブな問題である。性同一性障害を公表している歌手、中村中が2007年に紅組で出場しているが、望んだ形とは違ったと語るインタビューを読んだ。

「Sexuality(性別)」とどう向き合っていくのか、まだまだ手探りは続く。案外早く、男女で分かれるのではなくクジ引きでチーム分けが決まる時代が来るかもしれない。そもそも紅白歌合戦の「紅白」は剣道の対抗試合が由来らしいので、意味はそれでも通るのである。

 今年の新たな取り組みとしては、NHK紅白歌合戦ロゴがグラデーションに。紅組・白組・総合司会も、「司会」に呼び方を統一される。