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「結局、詳しいことはなにも知らない。これはマズいなと…」

 起業して豚肉の販売を始めたはいいが、菊地にはふと思うことがあった。

「伯父や母から豚肉に関する説明や情報はもらってはいたんですけど、結局は商品について詳しいことはなにも知らないんですよ。これはマズいなと……」

2009年はチーム最多タイの58試合に登板し、リーグ3位の26ホールドポイントを挙げてリーグ優勝にも貢献 ©文藝春秋

 このあたりは、さすがプロ野球選手。いくら口頭で教え(指導)を受けても、自分の体に落とし込み、能動的に身に付けなければ本物の情報にはならない。

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「ですから伯父に見習いからでいいから農場を手伝わせてくれないかってお願いしたんです。迷いはなかったですね。とにかく生産の現場を見て学ぶ。実際、お客さんに伝えられることがすごく増えたんです」

自ら農場に飛び込むことに…(菊地さん提供)

毎朝5時に農場へ「豚の世話をしていると生きている実感が…」

 それからというもの平日は毎日、朝5時前に起きて農場へ向かう生活が始まった。仕事が終わるのはだいたい午後3時から4時。空いている夕方の時間や休日は、豚肉の販売や飲食店などのお得意さままわりをして営業に力を入れた。

 街の生活とは違う、家畜とのリアルな現場。菊地は、清潔で臆病な豚と接すると愛着が湧き、冒頭で述べていたとおりかわいくて仕方がなくなったという。

農場で汗を流す今の菊地さん(菊地さん提供)

 とはいえ農場での仕事は重労働だ。掃除や餌やりに始まり、“肥やしかき”という糞尿の処理や“種づけ”もある。匂いもきつければ汚れもするが、菊地は笑顔で「豚の世話をしていると生きている実感がすごく湧くんですよね」と、嬉しそうに語る。

「掘っ立て小屋ぐらいならすぐに建てられますよ」

広大な土地を管理する菊地さん。「掘っ立て小屋ぐらいならすぐに建てられますよ」と語る(菊地さん提供)

 農場は高崎の中心地から車で30分ほどの人里離れた榛名山の中腹にあり、周囲約2キロもある広大な土地だという。あたりには熊やイノシシも出没する大自然。例えば柵など農場の施設や備品が壊れれば、できるかぎり自分たちで直すようにしている。

「だから今は、掘っ立て小屋ぐらいならすぐに建てられますよ」

 菊地は、充足感を漂わせながら次のようにつづけるのだ。

「自分にとって大きな経験となっているのが、山のなかで農業をしているということなんです。農業は人が生きていくための源だと思うし、それに例えば街中で生きてきた人が山のなかに放り出されたら、たぶん街で培ってきたものなんて何の役にも立たないと思うんです。

 でも今の僕は、生きていく地力がついたというか、地に足がついているのを感じているし、こういった姿勢を崩さず今後も生きていきたいなって」