本当の意味でのサバイブ。人としての本能を刺激され、今を生きていると実感している。菊地の第二の人生には、プロ野球時代を上回る“スケール”が感じられる。あらためて菊地は、プロ野球時代を次のように振り返る。
「結局好きなことをやっていたわけですから」
「あの時代があったからこそ、今の自分があるのは間違いありません。豚肉販売の営業のときにプロ野球選手だったから顔を覚えてもらえることもありました。ただ、あのとき苦労したのかなって考えると、結局好きなことをやっていたわけですからね。
最近、日本ハムの監督に就任した新庄剛志さんが『苦労が楽しくなるまで苦労することが苦労』と、おっしゃっていましたが、まさしくそういうことだと思うんです。好きなことやって成功すれば年俸は上がる。けど一般の人は生活のために好きかどうかわからない仕事をして、給料もあまり上がらず頑張っているわけです。そっちのほうが大変だし、僕はすごいと思いますよ」
プロ野球生活で得た“恩人の言葉”
わずかばかりの輝きしか放てなかったプロ野球人生で、悔しさも残るが幸せな時間だった。そしてあのときの経験は、確実に今につながっていると菊地は確信している。
「先ほど名前を出した日ハム時代のトレーナーだった中垣さんに、いつも口を酸っぱくして言われていたんです。『積み上げないと何者にもなれない。技術をひとつ身に付けるにしても、上手くいった回数を最低でも一万回繰り返さないと自分のものにならない。それには根気が必要なんだ』と。
これは本当に今の仕事にも言えることだし、豚を育てるのも、豚肉を売るのも一緒だと思うんです。自分自身を客観的に見て、やるべきことやダメなところにしっかりと向き合い、根気強く対応していくこと。これからもそこだけはブレずに仕事をしていきたいですね」
野球と養豚。リンクするとは思えないものであっても、菊地のなかでは確実につながり、生きていく糧となっている。プロを辞めたから出会えた、満足度の高い仕事。
もう榛名山あたりでは雪が降る季節だが、朝焼けのなか菊地は白い息を吐きながら、今日もかわいい豚たちを育てている。