「悪かったよ」
私は悪いことをしていないのに謝った。私の頭の中が強烈な酔いでグラグラに揺れていた。
急に身体に異変を感じ、変な汗が出る
「アニキ、まだ歌は続いてる」
ボブサップに抱えられながら、私は起き上がった。このあたりから私のテンションは自分でもわかるほどおかしくなり、なるようになればいいという心境になってしまった。
「イェーイ! セクシーレーディー!」
江南スタイルを熱唱しながらダンスをした。今度はコカレロのボトルが運ばれてきた。コカレロとはコカの葉などハーブ系の植物を原料に作られた、綺麗な緑色をした度数が30度程の酒だ。
またもや私が歌っている最中に、コカレロのボトルが開けられた。ボブサップが無数のショットグラスにコカレロを注ぎまくる。会計はとんでもない額になるだろう。
「よーし、飲むぞー!」
私はマイクで叫んだ。ラテン系美女と抱き合い、ボブサップとハイタッチをする。すると、急に身体に異変を感じた。変な汗が出て、ボブサップの顔がボンヤリして見える。周囲がグラングランと回り、力が抜けていく。立っていられない。屈み込む。嘔吐をした。
「バカ、日本人」
「クソ野郎」
遠のく意識の中で、私への悪口が聞こえる。たった今まで、楽しく遊んでいた外国人ホステスたちの声だった。
「生きていただけ良かったな」
「筋弛緩剤でも飲まされたんだろ」
しばらく療養していた私は、外国人マフィアと親交がある元暴力団構成員のジュンジに笑いながら言われた。裏社会で生きてきたジュンジは歌舞伎町のぼったくり事情にも詳しい。
「生きていただけ良かったな、哲也」
私はナイジェリア人不良グループの店で10万円程の金を取られて痛い目に遭ったが、助かったのはクレジットカードが使われていなかったことだ。あれだけ派手にシャンパンなどを開けられたらもっと高額な会計になっていたはずだ。仮に動けなくなった私が死んだとしたら、カードまで切るのはヤバイと思ったのだろうか。不幸中の幸いだった。
歌舞伎町の繁華街に詳しい出版関係者(40代)は話す。
「歌舞伎町で言えば、Kビル(仮名)とRビル(仮名)が、アフリカ系のシマだと聞いたことがありますよ」
私が被害に遭った外国人パブの場所が、まさにそうだった。KビルとRビルでは、ぼったくりと昏睡強盗が横行しているという。
それにしても、本当に死ぬ想いをした。薬を盛られたせいで私は1週間程、寝込むことになった。意識は朦朧とし、会話もままならない。全身に力が入らず、糞尿も気付いたら垂れ流してしまう有様だ。
薬物反応が出ることで警察に捕まりたくない。病院にも行けなかった。日常生活に著しい支障が出てしまい、体調不良になったせいで精神的にも急激に弱気になってしまった。