店内はカウンターとソファー席が何席かある、広くも狭くもない丁度良いサイズの空間だ。私はボブサップにソファー席に案内された。
「何飲む? ビール、ウイスキー、ブランデー、焼酎、日本酒、何でもあるよ」
私はウイスキーの水割りを頼んだ。薄暗い店内には私以外の客はいない。おかしい。まだ 21時ぐらいで終電には程遠い時間だ。
すると、南米系のラテン系美女が現れた。年齢は30代半ばぐらいだろう。少しふくよかだが、やたらと露出の多いセクシーなドレスを着ている。彫りの深い顔でニコリと笑い、ソバージュのような髪をかき上げた。香水の匂いなのかシャンプーの香りだろうか、やたらと鼻につく。ボブサップが片膝を付いて、丁寧にテーブルにウイスキーの水割りを出してくれた。
「アニキー。ゆっくりしていってー」
ボブサップは不気味な笑顔で私に言った。いくら金を取られるのだろうか。私は何も言わずにウイスキーの水割りを飲んだ。すると、勝手にラテン系美女もドリンクを飲み始めた。私は一切許可をしていないが、黒人客引きは女性のドリンクも込み込みだと話していた。その言葉が真実かどうかは会計の時に分かるだろう。
肩をバシンッ「お前の身体などいつでも壊せるぞ」
「お酒好きだねー。ロックで飲んだらー」
ラテン系美女は私の股間を指で撫で回す。私は反射的にラテン系美女の手を抑えた。すると、ラテン系美女は私の頬にキスをした。抑えていた手を離すと、今度は私の乳首を触り始めた。
酔っていても分かる。これで1時間5000円で済むはずがない。ボブサップは入口のドアの前で仁王立ちをして睨みを利かせている。特に私以外の客もいないし、暇そうだ。私はラテン系美女に頼んでボブサップを呼んでもらった。ボブサップがどうしたという顔で近寄ってくる。
「せっかくだから一緒に飲みませんか?」
ボブサップは、オーマイゴッドのポーズをした。
「オレー、酒飲めない」
ラテン系美女が笑う。疑うのは良くないが、ボブサップが飲めないのはたぶん嘘だ。2人で私を馬鹿にしているのだ。このままではいけない。
「どこの国から来ましたか? 日本は長いですか?」
ボブサップは表情を曇らせた。すると指でピースサインを作り、私の額に押し付けてきた。
「ナイジェリアだよー。2ヶ月」
その手を私は無表情で払いのけた。
「ナイジェリア人のアウトローグループを知ってますか?」
ボブサップは不機嫌な顔をしたと思うと、私の肩をバシンッと力強く叩いた。ボブサップの腕のパワーに、私の全身が揺れた。私の小さな身体など、その気になれば壊せるんだぞと遠まわしに伝えられた気分になった。