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 店員さんも、なかなか食べ始めないその男性に何か言いたそうにしていたが、声をかけるまでには至らなかったという。

「ようやく食べ始めたんですが、一口の量が多く、やけにズルッズルッと音を立てながら啜るんです。単にそういう食べ方の人なのかもしれないですけど、『ラーメンは音を立てて啜れ』みたいな主張を感じました。

 そして、別に誰も聞いてないのに『なるほど……』とか『多加水か』などと、ブツブツ言いながら食べ続けて、ものの数分で完食。最後は丼に口をつけてスープを飲み干し、なぜか空中で丼を裏返して、大声で『ごちそうさまでした!』と満足顔。

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 店を出ていくときも『大将、美味しかったです! 本日もありがとうございました!』と挨拶していました。ラーメンマニアという人種は知っていましたが、その男性はいろいろ完璧で、ある意味感動してしまいましたね」

二郎系ラーメン店と「ジロリアン」とのプライドを賭けたバトル

 そんなラーメンマニアのなかでも、さらにハードでストイックなのが、「ジロリアン」と呼ばれる一派だ。「ラーメン二郎」、またはその様式を真似た「二郎インスパイア系」のラーメンをこよなく愛し、通い続けている。

 二郎系ラーメン店には通だけが知るマナーやルールのようなものがあり、注文の仕方で戸惑ったり、食べる速度が遅かったりすると「ロットを乱すな」と蔑まれる。さらに二郎系は太麺で物理的にも麺の量が多く、その上に豚肉や野菜が山盛りになっているのでとにかくボリューム満点。食べきるには相当な覚悟が必要だが、食べ残す行為は最も忌み嫌われており、完食できないものにジロリアンを名乗る資格は無いという。

「大阪にある、二郎インスパイア系のなかでは正統派として有名な某店に行った時のことなんですけど……」と切り出してくれたのは、自営業の馬場悟和さん(仮名)だ。

「その店は券売機方式なんですけど、大盛りのボタンだけ押せなくなってるんです。これは大盛りの量があまりに多いので、初見の人に買わせないようにするための配慮なんですよ。実際に普通盛りでもかなりの量があるから、大盛りはフードファイターレベルの胃袋じゃないと無理だと思います。

 その日、僕はいつものように店内でラーメンを食べていたんですが、券売機の前で30代くらいの小太りの男が店員と揉めてるんです。よくよく聞いていると『初めて来たけど、大盛りを食べさせろ』と主張している様子。

 店員は『うちは1回普通盛りを食べてもらったお客さんにしか大盛りは提供してないんです』と説明してるんですけど、男は『自分は東京から来た。慶應卒でガキの頃から三田本店(※本店は慶應大学のほぼ目の前に位置している)に通っている生粋のジロリアンだ。こんな店でなめた態度を取られる覚えはない』的なニュアンスのことを喚いていました」