西村 付き合い始めて1年ちょっとした頃の話ですが、JRの高崎線ってありますよね。私は実家が東京の北区で、近くに踏切があったので、小学校の頃から高崎線をいつも見ていたんですね。
──オレンジと緑のラインが入った電車ですね。
西村 そうそう。私が小さいときには、ラインじゃなくて、車体がオレンジと緑に塗られていたんです。
時を経て彼と付き合い始めて、一緒に池袋に向かう電車に乗っていたとき、窓越しに高崎線が通り過ぎるのが見えたんですよ。
──あの辺は線路が何本も並行しているので、窓越しに見えますよね。
西村 そうそう。で、私はオレンジと緑の電車が見えたから「高崎線だ」と言ったら、彼が「これは高崎線ではない」と言い出して。
論破王の片鱗に「この人と別れようかな…」
──でも、その色だと高崎線だと思いますよね。
西村 でしょう? だって、私は小さい頃からずっと高崎線を見ているんですよ。
だけど彼は、「君は《オレンジと緑色だから》という理由だけであの電車が高崎線だと判断しているけれど、それだけの材料で、あれは高崎線だと主張できる根拠となり得るのか」みたいなことを言い始めて。
──それは……驚きますね。
西村 私はもうびっくりしちゃって、「コイツ、何言ってんの?」と思って。
でも彼は「あれが高崎線であるという客観的根拠を色以外に示すことができないなら、100%高崎線であるとは言い切れないんじゃない?」と言い続けて。
「私、この人と別れようかな……」って、わりと本気で思いました(笑)。
──確かに面倒くさいですね。
西村 彼は「たとえば《高崎線はここからここまでの区間、この線路を通っている》というような、色以外に主張できる根拠がいくつもあるはずなのに、君はそういうのを何も知らないんでしょ」と言ってきたんです。
そう言われると確かに、私は知らないんですよ。
──ゆかさんは普段から高崎線に乗っていたのではなく、高崎線が踏切を通過するのを見ていただけなんですよね。
西村 そうなんです。だから「あれは高崎線だね」って言っただけで。
それなのに突然「その根拠を示せ」と難癖つけてくる人間に出会ったことがなかったので、なんて面倒くさいヤツだろうと思って。私ちょっと、泣きそうになったんですよ。
そしたら彼は「……あれ? あの電車、やっぱり高崎線かも」と言い出して。
──え。ゆかさんをずっと問い詰めていたのに?
西村 「高崎線かもしれない。じゃ、いいや」って。こっちは「おまえ一人だけスッキリして、終わりかよ!」ってなりました。
──「私の気持ちはどうすればいいの?」ってなりますね。
西村 そうなんです。そういうのが積み重なって、私もだんだん耐性がついちゃったんですね。