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「おまえは誰にも似てないな」生後すぐに東京都立病院で取り違えられた私が“実の親を知りたい”本当の理由〈17年ぶりの再提訴、都知事は手のひらを返した〉

江蔵智さんインタビュー #1

2021/12/31

source : 文藝春秋

genre : ライフ, 社会

「子どもの頃から親戚が集まると、『おまえは誰にも似てないな』と言われていました。まさか血縁関係がないとは夢にも思わなかったけれど、居心地の悪さはずっと感じていたんです。僕は、自分の『出自』を知りたい。いったい自分が何者なのか――」

 11月5日。都内に住むひとりの男性が、東京都を相手取り「生物学上の親の特定などを求める訴訟」を東京地裁に起こした。生まれてすぐに病院で取り違えられた、江蔵智さん(63)だ。(全2回の1回目/後編に続く)

「戸籍受付帳」を手にする江蔵智さん

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「親子関係がない」46歳で知ったDNA鑑定結果

 1958年4月。都立墨田産院(墨田区八広・1988年に閉院)で生まれた江蔵さんが、両親と「親子関係がない」というDNA鑑定の結果を受けとったのは2004年、46歳のときだった。

「その7年前の1997年に、母が体調を崩して入院して、そこで血液型がB型だということがわかりました。父はO型、僕はA型――。おかしいと思って3人揃ってほかの病院でも血液型検査をしましたが同じ結果。咄嗟に『DNA鑑定』という言葉も頭に浮かびましたが、調べると費用が180万円もかかると知って手が出ませんでした」

インタビューに応じた江蔵智さん

 その頃、新聞に〈両親B・O→子はA DNA鑑定実子と判明〉という遺伝子組み換えによる親子間の血液型不整合の記事が出た。江蔵さんは「自分もその特殊な例だ」と思い込もうとした。

 だが2004年、自身の通院をきっかけに九州大学大学院医学研究院の教授に紹介され、親子3人でDNA鑑定を受けることとなった。

 その検査結果が、〈本人と父親との父子関係および母親との母子関係のいずれも否定される〉というものだったのだ。

「『あなたにはお父さんとお母さんの血は一滴も流れていない』と教授に言われ、めちゃくちゃに驚きました。頭のなかは真っ白で何も考えられなかった。一方で、父母と暮らしていた14歳までの違和感が腑に落ちたところもありました」