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2021/12/31

source : 文藝春秋

genre : ライフ, 社会

原因は産院での取り違えしか考えられない

 実の親を知りたい、会ってみたい。原因は産院での取り違えしか考えられない、と江蔵さんは東京都や厚生労働省、社会保険庁や法務局、そして墨田区役所などに問い合わせと調査の依頼を開始した。だが、どこからも資料の保管期間や個人情報保護を理由に欲しい回答は得られなかった。

 手がかりを失った江蔵さんが、産院を開設していた東京都に損害賠償を求めて提訴したのはその年の10月のことだ。

 

 実は筆者は、17年前の地裁提訴直後に江蔵さんに会っている。2004年11月に開かれた、第1回口頭弁論を受けた読売新聞の小さな記事がきっかけだった。江蔵さん、そしてご両親などに取材をした結果は、「週刊文春」(2004年12月9日号)において「DNA鑑定で初めてわかった 46年前に取り違えられた私『産みの親を探しています!』」と2ページにわたって掲載されている。

「とにかく自分の出自が知りたいのです」

「ご無沙汰しております」と、当時は仮名で取材・掲載に応じた江蔵さんから約17年ぶりの電話をもらったのは今年10月のことだった。

「とにかく自分の出自が知りたいのです。そのためにまた都を提訴します」

 変わらぬ淡々とした、だが芯の強さを感じられる声。その長い闘いがいまだ続いていることに驚き、改めて話を聞くこととなった。

 

 2004年に始まった一審では、翌年、産院での「取り違え」自体は認められたものの損害賠償については時効を理由に棄却された。控訴した東京高裁の判決(2006年)では「取り違え」を認めたうえで、「産院の重大な過失で人生を狂わされた」として、都に対し江蔵さん親子に計2000万円の支払いが命じられた。

「地裁判決で取り違えが認められたあと、石原慎太郎都知事(当時)は定例記者会見で、都が所有する資料を開示して、国にも資料の開示を求めると言ってくれていました。

 その言葉に勇気づけられて、改めて『墨田区の出生受付帳を確認して、実の親を探してほしい』と申請しても、『法令の定めがない』とか『相手がたの平穏な家庭を乱すかもしれない』と断られる。僕の平穏は乱されているのに、です」

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