ネット上にあふれ返る膨大な情報には信頼性を欠くものも多いのが現状。がん治療の情報提供に取り組むNPO法人「キャンサーネットジャパン」の理事である後藤悌氏に、ネット情報との正しい付き合い方について聞きました。

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 病気になったら、まずはインターネットで情報を検索する方も多いでしょう。いまでは、スマートフォンも普及し、病院からの帰宅途中に調べられる時代です。製薬会社が2012年に行った、がん患者を対象にした調査でも、情報収集先は「担当医」を抑えて「ネット」がトップになっています。

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 しかし、医師として患者に接していると、確度の低いものもあり、患者がネット情報に翻弄されていることも少なくありません。特に、がんのように完治が難しい病気の場合、奇跡的な効果をもたらすような宣伝に魅せられてしまう患者も多いのが実情です。

 私は2009年、「ステージ4の非小細胞肺がん」をキーワードに検索し、その上位61サイトの内容を精査してみました。すると、正しい情報が掲載されているのは、医療機関は20サイトのうち10、公的機関やNPOは8のうち6、個人は9のうち1サイトだけでした。広告に至っては11のサイトすべてに問題がありました。

 2013年にも「肺がん」をキーワードに上位30サイトを調査しましたが、病院や学会からの情報が12あったものの、標準治療でない治療法を推奨するサイトや広告が過半数を占めました。

 このような状況は、医療現場にも影響を与えています。

 私の担当している患者でも、診察のたびにネット情報を印刷して大量に持ってくる50代のがん患者の男性がいました。ご本人だけでなく、家族や周辺もネットにいい治療法が紹介されていないかと探し回っているようでした。こちらも一枚一枚を真剣に検討するのですが、やはり間違っているものがほとんどです。「これは勧められない」「それはやらない方がいい」とやりとりをしているうちに気持ちのギャップが広がってしまい、最終的には、男性が「私は周りの人にひたすら騙され続けているって言うんですか」と怒り出して信頼関係を損ねてしまいました。

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 患者によっては、ネットの情報を信用して治療を中断してしまうケースもあります。ある40代の女性は進行した腹部のがんでしたが外泊後に病院に戻らず、半年後にかなり苦しそうな状況で戻ってきました。残念ながら、その間、次の治療が難しいくらい病状が進んでいました。