27人が履いた“タンスアルファ”と”タンスヴェイパー”
アルファフライは¥34,100(税込)、ヴェイパーフライも¥28,050(税込)と、決して安いとは言えないシューズです。それでいて、耐久性は高くない。つまり練習でガンガン履くようなシューズではなく、ここぞというレースの時に履くものなのです。
しかし、コロナ禍がナイキの追い風となります。いち早く、企業としてもDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応したナイキは、自社のオンラインサイトを使いクリアランスセールを繰り返します。在庫を残すくらいであれば、小売店への卸値くらいの値引きでも商品がさばけたほうがよいのでしょう。ただでさえ安くなったナイキのシューズは、誕生日近くになるとオンライン割引が適用されました。
つまり、高値の花であったアルファフライもヴェイパーフライも大学生のお財布にもやさしい半値で手に入れることができた。これが箱根駅伝におけるナイキ人気の本当の理由だと僕は思っています。
そうやって手にいれた虎の子のシューズも、コロナ禍で、ためし履きや選考レースの機会でもあるハーフマラソンなどが激減。自腹で買った選手たちは「いつか晴れの舞台に立ったときのために」と、旧作のアルファフライやヴェイパーフライを大事にしまっていたわけです。いわば「タンス預金」。このシューズを僕は「タンスアルファ」「タンスヴェイパー」と呼んでいます(正式な商品名ではありませんよ!)。
今回、「タンスアルファ」と「タンスヴェイパー」を履いていたのは27人。ナイキを着用した選手のうち6分の1は、大事にしまっていたシューズを引っ張り出してきた。エントリー変更で突然走ることになった選手ほど、「タンス」率が高いのも特徴です。
コロナ禍でマラソン大会が激減し、「タンス」シューズをしまったままの市民ランナーも多いのではないでしょうか。僕もそうです。だからこそ、大事にしまっていたヴェイパーフライやアルファフライを満を持して投入した選手には、つい共感してしまう。思い入れを持って見てしまうんですよね。
機能性だけではない、「厚底」の意外な活用法
もうひとつお伝えしておきたいことがあります。厚底、厚底と騒がれてきましたが、厚底の利点は機能性だけではありません。今年の箱根では、ソールの側面にメッセージを書いている選手が何人もいました。特にアルファフライには厚みもあり、字を書くスペースができた。これは薄底の時代にはできなかったことです。つまり、厚底のスペースが寄せ書き場所へと変化したのです。
印象的だったのは創価大で9区を走った中武泰希選手のソールです。そこには「小野寺の分まで」と書かれていました。
前回の箱根駅伝で、創価大はゴールまであと2kmというところで駒澤大に逆転され、優勝を逃しました。このとき10区を走っていたのが小野寺勇樹選手。今回はエントリーを外れ、中武選手のサポートを務めていました。ただ「聖教新聞」によれば、これは中武選手が書いたのではなく、「リラックスできるように」と小野寺選手自ら「小野寺の分まで」と書き込んだようですが(笑)。いずれにしても走れなかった仲間の想いが、厚底に詰まっていたわけです。