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〈シューズで見る箱根駅伝2022〉“シューズ界の第一党”ナイキが議席を減らし、アシックスが躍進した理由

2022/01/06
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厚底シューズの登場で、あらゆることが変わりつつある

 今年の箱根でも、とてつもない記録がいくつも出ました。そのため最近はシューズのおかげでタイムが速くなったと言われがちですが、それだけではないと僕は思っています。山登りの5区に関しては、以前に比べると極端に遅れる大学はなくなりました。つまり各大学、山対策がしっかりできている。しかし、3人の“山の神”のレベルに近づく選手はいません。

 これは“二代目山の神”柏原竜二さんも話していたのですが、ナイキの厚底シューズの登場により、ランニングのあらゆることが変わりつつあると。まずフォームが変わりました。反発力の高いシューズの特性を生かすために、多くの選手が美しいフォームに変わってきたのです。

 変わったのはフォームだけではありません。

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 例えば体型。以前はふくらはぎが張っている選手が多かったものですが、今の選手たちはケニア人選手のように膝下が細い。その分、太腿周りが大きくなってきています。

 それによって怪我の傾向も変わってきました。かつてはアキレス腱や筋膜炎など筋肉系の故障が多かった。ところが最近は、仙骨や股関節周りなど、関節系の故障が増えています。つまり、シューズの影響でよく動かす部位が変わってきたんです。

「第二の神林を作らないために」今年の青山学院大の思い

 前回の箱根駅伝の区間エントリー前日、青山学院大の主将・神林勇太選手の仙骨の疲労骨折が判明しました。原晋監督にとってこのアクシデントから学んだものは大きかったと思われます。「第二の神林を作らないために」。今季の青山学院大からは、そんな思いを感じました。

 箱根駅伝の約1ヶ月前まで、仙骨の疲労骨折の影響を抱えていた岸本大紀選手が7区を走り、区間賞を獲得するまでに復活できたのも、違和感に対するチームの対応が早かったからではないでしょうか。青学大のトレーニングメソッドは「青トレ」と呼ばれ、書籍も出るほど人気ですが、これまでの体幹トレーニング中心のメニューから、股関節周りのケアなども含めた青トレメソッドを確立していると思います。

“タンスアルファ”で7区区間賞を獲得した青山学院大・岸本大紀選手 ©末永裕樹/文藝春秋

 もはや何のシューズを履いているかという問題ではなくなっているというのが、今年の箱根駅伝での新たな発見でした。シューズが変わったことにより、これまでの常識が通用しなくなりつつあります。トレーニングメソッド、フォーム、ケアまでも進化してきている。EKIDEN Newsはこれから1年、新たな視点でシューズを追っていきたいと思います。

【出場全選手、着用シューズ一覧】

※(E)は最新モデルの「EKIDEN PACK」
※「AFN%」はアルファフライネクスト%、「VFN%」はヴェイパーフライネクスト%
※「プロト」は市販されていないプロトタイプ
※「メタスピード(前)」はメタスピードの前(市販)モデル

第98回箱根駅伝「選手別シューズ内訳 総合1位〜10位 往路」(「EKIDEN News」調べ)
第98回箱根駅伝「選手別シューズ内訳 総合1位〜10位 復路」(「EKIDEN News」調べ)
第98回箱根駅伝「選手別シューズ内訳 総合11位〜21位 往路」(「EKIDEN News」調べ)
第98回箱根駅伝「選手別シューズ内訳 総合11位〜21位 復路」(「EKIDEN News」調べ)

 構成/林田順子(モオ)

〈シューズで見る箱根駅伝2022〉“シューズ界の第一党”ナイキが議席を減らし、アシックスが躍進した理由

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