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〈シューズで見る箱根駅伝2022〉“シューズ界の第一党”ナイキが議席を減らし、アシックスが躍進した理由

2022/01/06
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前回のゼロから今年24人へ! 大躍進したアシックス

 さて、前回着用選手ゼロに終わったアシックスですが、今年の着用者はなんと24人。大躍進を果たしました。

 大きな宣伝をしてこなかったアシックスの新作厚底シューズ「メタスピード」が、ここまで着用数を伸ばした理由は、このシューズの良さが口コミで選手たちの間に相当広まっていたということでしょう。

山吹色のナイキと赤いアシックス ©末永裕樹/文藝春秋

 さらにこのメタスピード、今回の箱根ではまだ市販されていないプロトタイプが登場しました。

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 実は初代メタスピードは、東京五輪に間に合わせるために急ピッチで作られたものでした。昨年、世界陸連は4ヶ月以上市販されていないシューズは規定外とすると発表。東京五輪で選手に履いてもらうためには、4月29日までに形だけでも発売しなければなりませんでした。

 メタスピードには、若干、ソールが薄くてテンポよく走れる「エッジ」と、反発性を重視した厚底の「スカイ」の2種類があります。5区の山登りや前で足をさばくような走りをするトラックのセンスがある選手にはエッジが適していると思いますが、距離の長い箱根では反発性のあるスカイを選ぶ傾向が強い。ただ、このスカイ、その厚さゆえに安定性に欠けているのがネックでした。

 そこでプロトタイプでは安定性を改善。ソールの横幅を広げることで、安定感を上げています。厚さの規定はありますが、横幅の規定はありませんから、最適解を出してプロトタイプに反映させたのです。

 箱根駅伝ではこのプロトタイプを12人もの選手が着用しました。元日のニューイヤー駅伝でプロトタイプを渡されたのは、福岡国際マラソンで日本人トップで走った黒崎播磨の細谷恭平選手やヤクルトの高久龍選手ら一部の選手。 

ニューイヤー駅伝でアシックスのプロトタイプを履いた黒崎播磨の細谷恭平選手 ©EKIDEN News
こちらもプロトタイプを履いたヤクルトの高久龍選手 ©EKIDEN News

 多くの実業団選手は既存のメタスピードを履いてましたから、視聴率も高い箱根駅伝に一気に投入して、インパクトを与えたいというアシックスの戦略も見えました。

たった1人、プーマを履いた明治大・加藤大誠選手

 さて今シーズンは、プーマがいよいよ箱根駅伝に参戦しました。ナイキ一強に風穴を開けることを狙ったプーマは、なんと“キングカズ”ことサッカーの三浦知良選手の担当者を、ランニング部門に投入。さらに、第93回箱根駅伝では青山学院大学のキャプテンを務め、箱根3連覇、大学駅伝3冠を達成した安藤悠哉さんも、それまで勤めていたニューバランスからプーマへと転職。CMではあの瀬古さんと共演しているほどですから、駅伝・マラソンにかけるプーマの本気度が伝わってきます。

 プーマがいち早く契約したのは、HONDAの設楽悠太選手と旭化成の村山謙太選手でしたが、プーマシューズのお披露目となった福岡国際マラソンでは設楽選手は途中棄権、村山選手は出走を見合わせるなど、プーマの新シューズの評判がまだ聞こえてこない。失敗は許されない箱根駅伝に臨む大学生の足は保守的で、なかなか履いてくれる選手がいない。そんななか唯一、手を挙げたのが明治大の加藤大誠選手です。

プーマを履いた明治大・加藤選手 ©鈴木七絵/文藝春秋

 なぜ加藤選手はプーマを履くと決めたのか。ここからは僕の憶測ですが、実は加藤選手はF1が大好きで、尊敬する選手を聞かれると陸上選手ではなく、F1レーサーのルイス・ハミルトンと答えるほど(笑)。そして座右の銘は「Keep pushing the limits」。2021年F1で最後の最後でワールドチャンピオンとなったマックス・フェルスタッペンのように諦めない走りを信条とする選手。そのマックス・フェルスタッペンが所属するレッドブル・レーシングのウェアやドライビングシューズがプーマであることから、彼はF1と箱根の融合を今回目指したのではないかとにらんでいます。