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「東京五輪のセレモニーをやるから2日間だけどいてくれ」路上生活で体験した“ホームレス排除”のリアル《行政からの無言の圧力も》

「東京五輪のセレモニーをやるから2日間だけどいてくれ」路上生活で体験した“ホームレス排除”のリアル《行政からの無言の圧力も》

『ルポ路上生活』より #1

2022/01/21
note

目覚まし3点セット

 国民健康保険料は特別な事情なく滞納すると、1年未満の場合は有効期限が短い「短期被保険者証」に切り替わる。滞納が1年を超えると今度は「資格証明書」に切り替わり、医療費を10割自己負担したのちに、申請すれば保険給付分の医療費が戻ってくる。1年半以上滞納をしてしまうと、最終段階として10割自己負担のうえに保険給付分の医療費は戻ってこないことになる。

 黒綿棒だけではなく、多くのホームレスが最終段階まで進んでいることが予想される。だが黒綿棒は奥歯の状態に限界を感じ、最終的には虫歯の治療を受けることができたという。もちろん、医療費の10割負担などできるわけはない。

 日本には「無料低額診療事業」というものがある。経済的な理由によって必要な医療を受けることが困難な場合、無料または低額でその医療を受けることができる。黒綿棒もこの制度によって無料で歯を治療することができたのだ。

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 敷布団のおかげで劇的に寝心地がよくなった。相変わらずうだるような熱帯夜ではあるが、濡れタオルを目に被せて頭の後ろで縛ってみると、そのうちスヤスヤと眠りにつくことができた。私の自宅には表に「FUCK YOU」裏には「FUCK ME」と書かれたアダルトグッズのアイマスクがあった気がするが、つくづく、持ってこなくてよかったと思う。

 途中、ドリルのように回転するブラシを搭載した高圧洗浄車が真横を通り、顔に泥のしぶきが跳ねて起きてしまった。深夜3時には「ヤマザキパン」のトラックがエンジンをかけたまま真横に停まり目が覚めた。もしかすると僕らにパンをくれるのか? などと期待してしまったが、コンビニに搬入に来ただけだった。

 そして早朝、50発以上はあろうかという爆竹の音で飛び起きた。

 さらに、高圧洗浄車、ヤマザキパン、爆竹という目覚まし3点セットは、毎日決まった時間に必ず作動するものだということが数日過ごすうちに判明したのであった。

※取材監修:東京千代田法律事務所・大城聡弁護士

写真=國友公司

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ルポ路上生活

國友 公司

KADOKAWA

2021年12月27日 発売

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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