五輪でも変わらない生活
「この団体は月に2回の炊き出しだったんだけど、コロナで毎週やるようになったんですよ。コロナで中止になっている炊き出しもあるけれど逆に増やしているところもある。今日もたぶん2周くらいはもらえると思いますよ」
タオルケットの上から引っ越しを眺める新入りのホームレスを黒綿棒も認知しており、わざわざ私のところまで伝えに来てくれたのだ。見た目はだいぶ変わっているが、かなりいい奴かもしれない。
「昨日茹でてたマカロニも炊き出しでもらったんですか?」
ホームレスの社会にはお互いの生活に干渉しないというルールがあると何かの本で読んだことがある。しかし、ルールとはいえそんなもの人による。黒綿棒には何を聞いても答えてくれるような雰囲気がある。
「マカロニは通行人がベース(生活の拠点)に置いていった。ガスコンロはほかのホームレスからもらったものだけど、ちょうど昨日マカロニを茹でているときに壊れちゃったんだよね。マヨネーズはそれとなく手に入れたもの」
“それとなく”の意味がよくわからないのでさらに聞いてみると、「引っ越しで疲れすぎてとなりで寝ているホームレスに300円を借りた」のだという。
「昨日は引っ越しだったんですか?」
「いや、そもそも今の場所が本来の僕のベースなんだよね。だけど、東京五輪のセレモニー(聖火リレーの点火セレモニー)をやるから2日間だけどいてくれと行政に言われて、歩道橋の下に移ったんだ。で、開会式が終わったみたいだから元の場所に戻っただけ」
「ホームレス排除ってやつですか」
「これを排除って言っていいのかわからないけども。僕は2年間このあたりに住んでいるけど、移動を命じられたのは東京マラソンと今回のセレモニーだけ。それも2日とか3日とか一時的なものだし」
新国立競技場建設のため、明治公園に住んでいたホームレスたちの排除が行われたのは事実としてある。都市公園法では、「都市公園に公園施設以外の工作物その他の物件又は施設を設けて都市公園を占用しようとするときは、公園管理者の許可を受けなければならない」とされている。
つまり、明治公園内で寝泊まりすること自体、厳密に言えば違法であり、ふれあい通りのホームレスたちも本来許可を受ける必要がある。もちろん、何かしらの申請をしているホームレスなど一人もいないわけだが、五輪真っ最中の今もいつもと変わらない生活を送っている。