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「頭下げるだけで済むんですよ」郷ひろみ66歳…居心地悪そうだったアイドルが“唯一無二の陽キャラ”になるまで

2022/01/15
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「GOLDFINGER'99」に震える理由

 父が「想像できない」と言っていた郷ひろみの中年の歌手活動だが、実力派として広く認知されるターニングポイントは中年真っ盛りの38歳前後に訪れる。「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」「言えないよ」「逢いたくてしかたない」のバラード三部作だ。

 ただ、今見返せば、バラード三部作まで待たずとも「お嫁サンバ」の1年後の「哀愁のカサブランカ」(1982年)でもう、最高にイカした中高年になることは容易に想像できる。いやいや、「若さのカタルシス」(1980年)、「ハリウッド・スキャンダル」(1978年)、「よろしく哀愁」(1974年)までさかのぼっても、じゅうぶん明るい将来が続くことはうかがえるのだ。踊らず、ロマンチックに恋心を歌う郷ひろみは最高にジェントルだ。

 郷ひろみ自身、もっとバラードや正統派の楽曲を歌いたくなった時期もあった、というインタビュー記事を読んだことがある。そりゃそうだろうと思う。ジャパンやアチチばっかりもういいわ、とウンザリもしただろう。

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 が、郷ひろみのポテンシャルは、やはり「お嫁サンバ」「2億4千万の瞳」「GOLDFINGER'99」など浮かれ系で素晴らしく光る。これらの曲は、彼を超えるパフォーマンスをできる人が全く思い浮かばない。

左から西城秀樹、野口五郎、郷ひろみ。新御三家と呼ばれた(1976年撮影)

「GOLDFINGER'99」をカラオケで歌ったことのある方は覚えがあるだろう。何度も何度も「アチチ」と高いテンションで歌わないといけない大変さを! 私も挑戦したことがあるが、思った以上に「アーチーチーアーチー!」の回数が多く、ダレて途中で消した。西城秀樹の「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」もそうだが、キャッチーな歌ほど歌唱力と気力がいる。自分で歌ってみるとそれを痛感する。そして、それを素晴らしいクオリティで何度も繰り返し歌い続ける彼らのテクニックと魂に、震えるほど感動するのである。

「2億4千万の瞳」で描かれるボーダーレスの世界

「2億4千万の瞳」は意外なことに、オリコンウィークリーでは7位が最高。郷ひろみのシングル売り上げベスト10にも入っていない。私もジャパンジャパンと楽しんでいるわりに、あまり歌詞に注目したことがなかった。

 タイトルはこの曲が発売した当時(1984年)の日本の総人口が由来なのだとか。約1億2千万人。これに2をかけて、瞳の数が2億4千万。

 また、「僕」「私」「あなた」などの人称代名詞が出てこない。作詞家・売野雅勇によるこの粋な「企み」により、1億2千万人の胸騒ぎを、遠い空から俯瞰で観察している感覚になるのである。