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絶滅鳥「ドードー」に魅せられて、長崎、オランダ、果てはモーリシャスへ…世界中を“堂々めぐり”した男の話

三遊亭白鳥が『ドードーをめぐる堂々めぐり』(川端裕人 著)を読む

2022/01/18
『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(川端裕人 著)岩波書店

 ドードーという鳥を知っているか? と問われれば、漠然ながら知っていた。嘴の大きなずんぐりむっくりとして空を飛べない鳥、既に絶滅してしまった、位である。「不思議の国のアリス」に出てくる有名な鳥とは知らなかった。そんなドードーに魅せられ、日本の歴史から始まり世界中を堂々巡りした男の話である。

 まず驚くのは、この鳥が人間に発見された1598年から1662年、わずか100年にも満たない時間で絶滅してしまったことだ。そしてその貴重なドードーが1647年、江戸時代の長崎の出島に来ていたことが分かりびっくりした。

 表紙の絵を見れば、高台から長崎出島を背景に空を見つめる立派なドードーに圧倒される。この本にはドードーを描いた沢山の挿絵、スケッチ、そして標本写真が載っているのでまずじっくり眺めよう! おなじみのぽっちゃりした姿、野性味溢れる精悍な姿、絵の端にひっそりと佇む地味な姿。様々なドードーがいるね!

 この鳥が江戸時代わずかな間でも日本にいたということが信じられない。そしてその後、将軍に献上されたのか? 九州の大名に献上されたのか? 出島に残ったのか? 作者は必死に歴史を探っていく。

 日本だけではない。鎖国時に出島で貿易を許されたオランダから、プラハ、コペンハーゲン、遠くはイギリスのオックスフォード。世界中を探し歩く。

 そして最後に生息していたモーリシャスで、作者自らドードーの化石を探し歩くのだが、また驚くことに、ここでも日本人が関わっているのだ。遠い外国で絶滅した鳥としか思っていなかったドードーがとても身近に、そして哀れに感じるのは俺だけであろうか?

 そして、この本によって俺の長年の謎が解けたことが嬉しい。かつて江戸時代にラクダが長崎の出島から江戸に見世物としてやってきた。その時、ラクダを見た噺家が「これは滑稽だ」というので、長屋で図体のでかい暴れ者のことを「らくだ」と名付け落語にした。有名な古典落語「らくだ」の誕生である。でも俺は「当時、珍しいラクダがなぜ見世物になったのか? 普通なら将軍や大名に献上され、江戸っ子の目に触れることはなかったはずだ」。

 既に何度か日本に来ていたラクダは、1821年オランダが幕府の献上用に持ち込んだが「もう珍しくもなく、世話も大変だし……」。誰も引き取り手がなく長崎商人を経て見世物小屋に渡り大阪、京都、江戸を回ったと書いてあった。テレビで売れなくなった大物お笑い芸人が地方で営業させられてるみたいで悲しい。

 俺の願いは日本のどこかでドードーの化石が発見され、ドードーの銅像が長崎の出島に堂々と建立されること。そして落語も100年後絶滅しないように進化していかなくてはいけない、そんな思いが私の頭を堂々巡りするのである。

かわばたひろと/1964年、兵庫県生まれ、千葉県育ち。文筆家。日本テレビ報道局で科学報道に従事後、フリーランスに。著書に『「色のふしぎ」と不思議な社会』『動物園にできること――「種の方舟」のゆくえ』など多数。
 

さんゆうていはくちょう/1963年、新潟県生まれ。落語家。2001年真打に昇進、05年彩の国落語大賞受賞。絵本など著書多数。

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