大阪偕星学園高校(大阪市生野区)の硬式野球部元監督・山本セキ(晳、53)が、同校のコーチだった水落雄基(31)、山本と中学・高校の同級生だった旅館「文乃家」の経営者・吉間俊典(54)と共に詐欺容疑で逮捕されたのは1月12日のこと。

 山本は昨年4月から岡山県の倉敷高校で野球部監督を務めていたが、逮捕の翌日の送検時に羽織っていた白いウエアは大阪偕星学園野球部のグランドコートだった。逮捕されるにあたって、2015年夏に自ら甲子園初出場に導く一方で詐欺に利用した学園のウエアを選んだことにはどんな意味があるのだろうか。

名刺を渡すと「君は在日か?」

 容疑の内容は、観光支援事業「Go Toトラベル」の給付金の不正受給だ。大阪偕星学園高校の野球部は2020年の8月から12月の間に、筆者が把握しているだけでも8回(14泊)にわたって岡山県津山市の文乃家に宿泊して強化合宿を実施した。

ADVERTISEMENT

 本来は1泊7000円のところ、Go Toキャンペーン対象の上限となる1泊2万円で宿泊したと観光庁に申請し、35%の給付金(のべ113人、ひとりにつき7000円換算で計79万1000円)を山本個人の口座に振り込ませてだまし取った、というものである。

2015年に大阪偕星学園高校を甲子園初出場に導いた時の山本セキ ©共同通信社

 私はあることをきっかけに、大阪偕星学園時代から付き合いのあった山本とは距離を置くようになっていた。そして、大阪府警の発表より早く、関係者から山本が逮捕されたという連絡を受けた時には、とうとうこの日が来たか——という感想しか抱かなかった。

 初めて山本と対面したのは2015年の夏。大阪偕星学園高校が甲子園出場を決めた後に山本に密着取材する機会があり、名刺を渡すと第一声がこうだった。

「君は在日か?」

 日本に帰化する以前の山本は韓国籍だったと打ち明け、韓国に多い姓である「柳」の字が入った筆者の苗字に反応したようだった。甲子園に出場するにあたって、新調されたユニフォームには学校の所在地である「IKUNO(生野)」の文字が入っていた。市町村名を入れる学校は多いが、自治区名を入れる学校は珍しい。その理由を「生野区は在日外国人も多くボーダーレスな社会がある。人を見た目や国籍、肌の色で判断することのない素晴らしい地域。地元の方に愛されたいし、地元の人の活力になりたい」と説明していた。山本セキという人間のアイデンティティが伝わってくる熱い言葉だった。