経営者がテレワークに反対する本音
最後に、経営者のコメントです。「テレワークを喜んでいる社員が多いので、続けてあげたい」(商社)という意見もありましたが、テレワークに批判的なコメントがたくさんありました。
「テレワークだと、データ紛失や回線トラブルなどのリスクがあります。営業部門の顧客対応も、かなり悪化しました。通勤地獄の解消など社員にとってメリットが大きいのは事実ですが、総合的に考えて、当社ではオフィス勤務主体に戻します」(金融)
「定型業務をこなす分には、テレワークでも問題ないでしょう。ただ、仕事ってそういうものですかね。事業の問題点を洗い出したり、新商品を検討するとき、ひざ詰めで時間を気にせずディスカッションをするべきだと思います。古いと言われるでしょうが、創造的な仕事をするにはオフィス勤務の方が優れていると思います」(消費財)
「知り合いの経営者から聞いた話ですが」と念押しした上ですが、次の興味深いコメントがありました。
「社長でも自宅に帰ると、単なる家族の一員。皿洗いも朝のゴミ出しもしなくちゃいけない。家族からは無視・蔑視される。会社に行けば、秘書がいて身の回りの世話をしてくれるし、部下は何でもハイハイと言うことを聞いてくれて、快適そのもの。社員がテレワークするとしても俺は出社するよ、という話でした。私も少しだけ共感します」(機械)
先ほど一般社員(エネルギー)は、会社の人間関係が嫌でテレワークを支持しました。一方、経営者は家庭の人間関係が嫌でオフィス勤務を支持しました。経営者も決して部下との人間関係に満足しているわけではないでしょうが、家族といるよりも気が合わない部下と過ごす方がずっとマシということのようです……。
ちなみに、私の知り合いのアメリカ人のIT企業経営者(今回の調査対象外)は「アメリカでも経営者はテレワークに反対」として、理由を次のように説明しています。
「アメリカの従業員は、テレワークだと間違いなく仕事をサボったり、手抜きをします。従業員をサボらせないように、できるだけオフィス勤務させたいわけです」
テレワークはどうなるのか?
今後テレワークはどうなるのでしょうか。会社の方針を決めるのは経営者。その経営者が「テレワーク反対」と唱えている以上、これから雪崩を打ってオフィス勤務への回帰が進む可能性があります。
ただ、ここで考えなくてはいけないのが、人材の獲得と維持です。いま日本では深刻な人材不足(人手不足ではなく)で、有望な新人や専門スキルを持った経験者を巡る人材獲得競争が激化しています。
優秀な人材が会社選びで重視するのが、「自由度」。好きな仕事をしたい、好きな勤務地・環境で働きたい、好きなように働きたい、会社から一方的に決められたくない、と考えます。「テレワークでないと絶対ダメ」ということではなく、選択権があるかどうかを重視します。
業務運営の合理性からオフィス勤務主体にするのは構いませんが、一般社員が嫌がっているのを無視して経営者の一存でオフィス勤務に戻すような会社は「自由度がない」ということで、優秀な人材から見放されます。優秀な人材を獲得できず、たまに獲得しても維持できず、長期的には会社の存続が危ぶまれます。
たかがテレワーク、されどテレワーク。テレワークとどう向き合うかで、会社の将来が見えてくるのです。