1ページ目から読む
2/2ページ目
象徴的なのが、ヒストリアという少女だ。妾(めかけ)の子として育ち、生きるため必死に「良い子」であろうとした彼女にとって、調査兵団で過ごした日々は、たとえ死と隣り合わせであっても人生の中で一番幸せな思い出なのだろう。調査兵団の同期ユミルの何気ない一言が、ヒストリアの回想の中では2ページの見開きで表現されていて、彼女がどれほどその言葉に救われたのか伝わってきた。こんな風に、誰の視点で捉えるかによって、物事の印象はがらりと変わってくる。
同じく調査兵団のサシャはすさまじい勢いで食べ散らかす健啖家だが、彼女を愛したシェフの記憶の中では、上品に食事を楽しんでいた。愛ゆえに美化された思い出に涙がこぼれてしかたなかった。
この世に救いはない。エレンは自由を手に入れるために世界を壊し、殺戮(さつりく)をいとわなくなってゆく。かつてのまっさらな彼では、もうない。ただこれまで犠牲にしてきたものが報われるまで、進み続けなければならないとひた走る。自由に生きていくということは生やさしいものではない。巨人を殺し、人を殺し、世界を震撼させてまで追い求める自由ってどんなものなのだろう。知るのが少し、怖い。
写真=深野未季/文藝春秋