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職場に手作り弁当を持参すれば「いいお母さんになる」と言われてモヤモヤし、餃子+ライスを注文すれば知らないおじさんに「邪道」とマウントとられ……そんな女の生きづらさを丁寧に描き、吹き飛ばすことで皆を救わんとする作者の気概を感じた。
春日さんの食べっぷりに「ほっとした」
それは食べた分しっかり体に肉のついた、どっしりとした春日さんの体格にも表れている。痩せの大食いでもなく、母性の象徴のような丸みを帯びた体つきでもなく、健啖家のイメージそのままの骨格からがっちりとしたフォルムでとても現実的。そして春日さんは自らの体型にコンプレックスなど持っていない。持つ必要がないから。ただ食べる喜びにあふれた食事の描き方もいい。エロと食欲を結びつけるのが嫌いなわけじゃないけれど、性的な目で見られていないことに正直ほっとした。
親しくなるにつれ、野本さんが少しずつ砕けた口調になるのもかわいらしい。春日さんも徐々に心のうちを語るようになり、年末年始に帰省しない理由を明かした。それを踏まえて最初から読み返すと、彼女の心の動きが見えてくる。
勝手に減らされたごはんを見てぎゅっとこぶしを握り、山盛りのカレーを前にして「…本当に私が食べていいんですか?」と問う姿に涙した。野本さんと春日さんは互いの作りたい/食べたいという気持ちを受け止め、肯定し合っている。まさに女同士の救済だ。
ツイッター上では「#つくってたべたよ」で多くの人が作中の料理を再現した写真を投稿しており、これを見るのがまた楽しい。
写真=深野未季/文藝春秋