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ばらまかれたカネの「奇妙な共通点」

 残る道はただ一つ。自分たちの取材で情報を集めるしかなかった。

 取材班にはある「スジ読み」があった。

 ……1億5千万円のうち1億2千万円は、税金から出ている政党交付金だった。政党交付金は使途を収支報告書に記載し、公開しなければいけない。そんなカネを「ばらまき」に充てるだろうか。むしろ足が付かないカネを使うのではないか……。

 取材班は改めて案里陣営の膨大な内部資料を入手し、関係者一人一人に当たっていった。加えて、政党交付金配分の権限を握る自民党の幹事長経験者にも取材し、党内で配分額に差をつける意思決定の過程を探った。複数の自民党関係者にも「政治とカネ」の本音を語ってもらうべく、水面下で接触を進めた。

 こうした取材を積み重ねる中で、行き着いた結論があった。

「1億5千万円はばらまきの原資にはなっていない。1億5千万円とは別のカネが克行の下に流れてきて、ばらまきに使われた」というものだ。

 克行は公判で買収資金の出どころを問われ、「自宅の金庫にためていた手元の資金」と答えていた。議員歳費をコツコツためてきたと説明した。

河井案里氏 ©文藝春秋

 しかし、克行がばらまいた現金には、奇妙な共通点があった。現金を受け取ったという地方議員や首長から「新札だった」との証言が相次いでいた。克行から受領した現金について前三原市長の天満祥典は「100万円は帯の付いた状態だった」と法廷で述べた。

 克行が述べたように「自宅の金庫にためていた手元の資金」を地方議員にばらまいたのが事実だとしたら、克行は金庫に新札ばかりためていたのだろうか。生活費にも使うはずの歳費の中から長年コツコツためてきたという紙幣が新札というのは、首をかしげざるをえない。同氏には多額の借金があったのだ。

「政界には何に使われたかわからないカネがある。官房機密費が使われたのではないか」

 元衆院議員で、民主党政権時に法務大臣を務めた弁護士の平岡秀夫(67歳)はこう推測する。

 官房機密費は国の事業を円滑に行なうための経費とされ、官房長官が支出を決定する。使途の明細は公表されず、その実態はベールに包まれている。

 中国新聞は官房機密費の関連資料の開示を国に請求し、参院選までの19年1~7月の支出額を記す「出納管理簿」を入手した。領収書が不要な政策推進費には毎月1億円前後が支出されていたが、具体的な使途は書かれていなかった。

河井案里氏 ©文藝春秋

 政党にも使途報告が不十分なカネがある。最たる例が政策活動費。政治家個人に提供した場合、その政治家に使途報告の義務はない。

 自民党の19年の政治資金収支報告書によると、党幹部18人に計約13億円の政策活動費を支出。うち約10億円は幹事長の二階に渡っていたが、何に使ったかは明らかにされていない。こうした「見えないカネ」が脈々とプールされていても、表に出てくることはない。

 自民党の役員経験者は、政策活動費を国政選挙の激戦区に投じることは「往々にしてある」と明かす。

「活動を強化することで当選ラインに乗る可能性があれば、資金を投入する」

 つまり、政権中枢の「表に出ないカネ」が河井夫妻に提供され、買収の資金に充てられた疑いがあるということだ。

 ここから先の取材は難航を極めることになる。真相を知り得るキーパーソンにも取材を続けているが、核心に触れる部分では必ず固く口を閉ざす。その源流はまだ正確につかめていない。

 だが、「決別 金権政治」取材班は1億5千万円とは別のカネが政権中枢から流れていたことに自信を持っている。取材源の秘匿もあり、その根拠を示すことは残念ながらできないが、堅い筋から情報を得ている。買収の資金がどこからもたらされたのか。中国新聞はこれからも取材を続ける。

【前編を読む】「頭は切れるし、仕事もできるが、性格は悪い」妻の当選のため2871万円をばらまいた河井克行の“素顔”を支援者はどう見ていたのか

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