日本中を政治不信の渦に巻き込んだ2019年の河井克行・案里夫妻による巨額の買収事件。実行犯である克行氏には3年の実刑、案里氏には懲役1年4ヶ月(執行猶予5年)・公民権停止5年の判決が言い渡された。
また、2022年1月20日には、河井案里氏が親族へ「さようなら」と自殺をほのめかし、約20錠の睡眠薬を服用。命に別条はないものの、病院に搬送された。しかし、事件の本質は本当に「個人の問題」のみに帰するものなのか。
ここでは、中国新聞「決別 金権政治」取材班が当事件を追ったノンフィクション『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録』(集英社)の一部を抜粋。河井夫妻に提供された1億5千万円をめぐる二階俊博氏とのやりとりから、日本の政治が抱える根深い問題に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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被買収議員に処分なし
今回の事件は、「昭和の事件」でもないし、広島特有の問題でもない。河井夫妻の属人的な事件でもない。河井夫妻をトカゲのしっぽ切りにして済ませられる問題でもない。
夫妻の公判を追い、事件を掘り下げて取材していく中で、取材班にはある確信に近い思いが湧いてきた。
事件の要因としてあるのは、自民党の根深い金権体質だ。
この体質は河井夫妻だけでなく、ライバルだった溝手陣営にも共通している。現金を受け取った地方議員にも、すぐに返金した議員がいた一方で、遊興費や飲食費、生活費に使った議員も多かった。
広島県には古い体質がまだまだ残っている。同時に、千葉県や群馬県での例(編集部注:千葉県東金市と群馬県前橋市で、市長や県議が市議選を控えた現職市議に現金を渡していたことが発覚した)を見てわかるように、他県にも同様の問題はある。選挙を含め、政治的な思惑で政治家を味方につけたい時、お金を持っていく慣行、文化は根深いものがある。
2020年9月から始まったキャンペーン報道「決別 金権政治」では、電話や手紙、ファクス、メール、SNSでさまざまな声が読者から寄せられた。取材に役立つ情報のほか、評価や激励の声もいただいた。一方で、「核心を突く報道ができていない」などと苦言、注文も寄せられた。
中でも、起訴されないのをいいことに辞職しない「被買収議員」の追及を求める意見は多かった。
克行らから現金を受領したとされる広島県内の首長、地方議員は40人いる。自民党の県議と広島市議だけで計24人と過半数を占める。40人のうち、辞職してけじめをつけたのは8人だけで、多くが職にとどまっていた。
2021年4月の参院広島選挙区の再選挙の時点で、刑事処分はなされていなかったが、東京地検は市民団体からの告発を受理しており、処分を検討中だった。公選法違反(被買収)の罪で起訴され罰金刑以上が確定すれば、失職する。
この再選挙の投票者に対する中国新聞社の出口調査で、被買収議員の刑事処分がどうあるべきかを尋ねた。「全員を起訴するべきだ」が56.3%、「辞職していない政治家を起訴するべきだ」が19.8%に上るなど、回答者の8割以上が起訴が必要と答えた。
被買収議員にどう向き合うかは、自民党にも問われている。ある自民党市議は「再選挙の前に離党勧告をするなど、党として一定のけじめを見せるべきだったのではないか」と指摘。「このまま何もしなければ、衆院選も同じ結果になりかねない」と懸念する。
再選挙で自民党候補が敗れた4月25日夜。党所属の国会議員や地方議員、支持者たちが集まっていた広島市内のホテルの壇上で、選対本部長を務めた宮沢洋一がマイクを握った。
「休んでいるわけにいかない。県連として、党本部としてもしっかり立て直し、秋に向かっていかなければならない」
10月21日の衆院議員の任期満了をにらんで危機感を強調したが、具体策には触れることなく、あいさつを終えた。